第9章 光と闇の戦記
3.本当のミッション・コンプリート
バックヤードに戻ったモカから カルメンの状況を聞いたナム達は 当然、驚いた。
「ヤバいッスよ! 身内とはいえ、一人で付いて行っちまうなんて!」
「私も 引き留めたようとはしたんだけど・・・。」
「育ての親がテロリストとか、どんだけハードな家庭事情?! 大丈夫なの? カルメンさん。」
「なぁなぁ、そんなにヤバいのか?」
「ヤバいに決まってるだろ? 相手はテロリストだぞ?!」
オロオロと無駄に焦るロディに、哀しげに目を伏せるモカ。ルーキー達も顔を見合わせ、心配そうに狼狽える。
ネオミッツホテルの豪華な室内は、空気が一気に重くなった。
「大丈夫だよ!」
「え?」
場違いなほどの陽気な声に、全員驚き振り返る。
ナム が笑っていた。
危険な単独行動を取る姐貴分を案ずる様子はない。むしろ何だか楽し気だった。
「ビオラ姐さんがくっついてったんだろ?
だったら心配ない。どっちも簡単にくたばるタマじゃないんだ、放っといても問題ねーよ!」
「・・・。」
無情とも取れる楽観的な言葉にしばし呆然となる。
「そう、ッスかねぇ?」
「おぅ、放っとけ放っとけ! アイツらだっていざって時にゃ ちゃんと共闘できるんだから。
お陰で俺が常日頃 どんな目に遭ってるか知ってンだろ? 2人がかりでいちいちイチャモン付けてきやがって。普段ケンカばっかしてるくせに!」
「なによ! そんなの ナムさんが悪いんじゃない!」
「叱られるよーな事してるからでしょ?」
「だから 怒られて イジられて オモチャにされる んだぞ?」
「 誰がオモチャにされてんだっっっ!?」
苦笑交じりの笑いが起り、緊張感が一気に解ける。
室内の空気が一変し、いい意味で全員、脱力した。
「 ま、いいや。
取り合えず これ以上ややこしくなる前に 情報整理 としとこうか。」
「オモチャ」扱いしたコンポンの頭にアイアンクローをかませ、ナムはおもむろに語り始めた。
「最初のMCは2Aは、地球連邦政府からの依頼で ティリッヒ政府内状の諜報だった。
それがそこにいる愉快な捕虜くん達のお陰で 探り入れるまでもなくなった。
地球連邦政府はティリッヒ傀儡にする気で脱退させないつもり。俺達も特殊公安局の手駒になってやる義理も無いぜ? モカはんもちろん渡さないし、やってもねぇ爆弾テロで土星強制収容所とか ゴメン被る。
普通だったらロディが言ったとおり、とっとと撤収してお終いだ。これ以上ティリッヒに居たって 1エンも稼ぎはないんだからな。
な ~ の ~ に ~~~ !!!」
急に口調がガラリと変る。
脳裏を過ぎった あの男 の顔、それに激しく苛立った。コンポン掴んでいた手を放し、ナムは拳を握りしめた!
「 難易度上がった5Aで ミッションはなぜか再始動。
つか、元々そんくらいヤバい案件だったんだろーよ! それをあの冷血暴君、意図的に2Aとかぬかしやがったんだ!」
ロディがごんぶと眉毛をつり上げ、シンディが目を丸くする。
「 え? どゆ事ッスか?」
「意図的にって、なんでそんな事わかるの?」
「わかるも何も、あの野郎がやりそーな事だろ!
エメルヒの企みもわかってやがったし、特殊公安局が陰でコソコソ動き回ってんのも知ってやがった! カルメン姐さんがとんでもねぇ事に巻き込まれるのも、大方想定してたんだっ!その上で 俺 に厄介事押しつけやがった! 着地点が無ぇこのミッションの 決着つけてみせろ っつってんだよ! 冗談じゃねぇぞド畜生!
そのくせ 勝手に助太刀寄越すとか!俺達だけじゃ手に負えねぇとか思ってやがんだ! あ"ー! もー腹が立つ!
あの野郎、いつか絶対ぶん殴ってやるぁーーーっっっ!!!」
「・・・ナムさん、大人げないよ落ち着いて。」
「そーだぞ、ぶん殴るとかできるワケねーんだし。」
「 やかましいっっっ!!!」
呆れて突っ込むフェイ・コンポンを八つ当たり気味に怒鳴りつけ、ゼイゼイ肩で息をする。
沸き立つ怒りが抑えきれない。それ故、ついモカに対しても乱暴な口調になってしまった。
「そーだろ モカ!
全部あの野郎の指図なんだろ、MC変更も 指揮官交代も!」
「 ・・・ うん・・・。」
モカが困ったように顔を伏せる。
(しまった!)
と、思ったが後の祭り。深呼吸して気持ちを落ち着け、頭の後ろを掻きむしる。
「やってられっかって話だけど、このまま撤収するワケにはいかない。
だから MCは5Aになった。
改革政党のデモ集会、爆弾テロ に 首相暗殺。それら一連目論む特殊公安局の目的と、そのヤバさをおそらく知ってる冷血暴君 局長の狙い!
本当のコンプリートはそこにある。このままオメオメ帰れっかよ!」
捕虜達の前にしゃがみ、捕虜達の顔をのぞき込む。
そして、無言で睨み返す彼らに、ある疑問を投げ掛けた!
「 なぁ。なんで この タ イ ミ ン グ ?」
「・・・!」
特殊公安局の男達はムッツリ押し黙ったまま。
厚化粧され落書きされた顔は、石になった様に表情がない。
「往生際悪りぃな。この期に及んでまだ何隠そうとしてんだよ?」
「ど、どういう事ッスか?」
「タイミングって、何?」
ロディとフェイが同時に聞いた。
「・・・おかしいの。最初のMC :2Aの 時から。」
答えたのは モカ だった。
静かに話し出した彼女は、どこか落ち着き無く見えた。
「ティリッヒが地球連邦を脱退するって話は『大戦』中からずっとあった。だから 特殊公安局がとっくの昔に手を打ってるはずなの。ここの宇宙空港は重要な軍事拠点なんだから。
なのに何で『今』、わざわざ外部の諜報部隊に依頼してまで調べるのかが不思議だった。
ティリッヒ乗っ取りとか 爆弾テロとか、それは私もビックリした。でもこれ、宇宙港350周年記念式典 が開催される このタイミング でする事?
地球連邦政府軍の功績を讃える式典なのに、どうして特殊公安局は 自軍 の公式行事を台無しにするような事するの???」
「そうか!『今』やる意味が何かあるって事だね!」
「疑問点はもう一つあるッスよ。」
フェイの言葉にロディも呟く。
「ナムさんが言ってた 首相暗殺 の理由っす。
何で殺そうとしたンッスか? 特別な理由があるンッスかね???」
「吐けよ!この野郎!」
大きなバリカンを握りしめ、コンポンが捕虜達に突進した。
「吐かないと今度は 下の毛 刈っちゃうぞ!」
「止めろ。さすがにそれは可哀想過ぎる。」
いきり立つコンポンをヘッドロックで捕まえ、もう一度捕虜達の顔を見る。
無表情のままである。ナムは追求を諦めた。
「だ~めだこりゃ。
わかんねぇ事は一先ず保留。さし当たって明日の 改革政党デモ集会 、こいつをなんとかしておこう。」
「なんとかって、どーすんの?」
不機嫌そうなシンディが ツンと口を尖らせる。
ここ最近、彼女は妙に機嫌が悪い。悪党・凶漢限定だが 何かと 人 を殴りたがるようになった。今も目の前に 特殊公安局工作員が居るのに、手を出せないのがご不満らしい。
と 言っても、彼らに厚化粧を施し 化け物 にしたのはこの シンディ 。充分手を出し虐めたのだが。
「先ずは『ロゲヴィア』の拠点を突き止める。」
コンポンの頭をロックしたまま、ナムは勢いよく振り向いた。
「モカが持ち帰った情報だと、コイツらの仲間が 朝一で接触したんだろ?
たぶん 捨て駒 だ。正規工作員は昨日の修羅場で人手不足、爆弾テロ代行させようって腹だろーよ。
で もって、ハメられる所だった俺達の代わりに土星強制収容所行き。元々マフィアまがいのチンピラ組織だし、 知った事ちゃないけどな。テロはいかんよ テロは!
阻止 するってのがフツーだろ? 人としてさ!」
「 阻止 って、俺達だけでッスか?!」
驚くロディが慌てて聞くと、ナムはニンマリ笑ってみせた。
ふてぶてしく、狡猾に!
「大丈夫だって! 強力な助っ人も見つかったし、ここはいっちょ、派手に行こうぜ!
万が一修羅場になっても何とかなるって! 俺達には 鋼鉄の処女 っていう強~い味方がいるしワケだし♪!」
ド サ !
突然 妙な物音がした。
事の成り行きを面白そうに傍観していた強力な助っ人・フラットが、座っていたソファから転がり落ちて目を皿のようにして固まっている。
「・・・鋼鉄の処女?」
「あ。い、いやその・・・。」
ナムが「しまった!」という顔になった。
後の祭りである。フラットの顔色がみるみる変り、青いを通り越し白くなった!
「居るんだな?! あの女がティリッヒに来てるんだな!??」
「まぁ、来てるつーか、来ちゃったっつーか・・・。」
「なんでそれを先に言わない!? 冗談じゃないぞ 最悪だ!」
「言ったら協力してくれないかな~なんて・・・。 それって困るし、ゴメン許して!」
バツが悪そうに慌てるナムと 恐怖の面持ちで狼狽えるフラット。
彼らの様子を不思議そうに眺めるフェイとシンディがロディに聞いた。
「あのおじさん、どうしたの?」
「様子が変よ? 怯えてるみたい。」
「・・・前のミッションで鋼鉄の処・・・、いや、サム姐さんに 片 腕 切 り 落 と さ れ そ ー に な っ た ンッス・・・。」
そう説明するロディの顔も青い。まざまざと目に浮かぶのは、マッシモ裏通り下水道で サマンサが繰り広げた凄絶な修羅場。
あの時は諜報ターゲットを罠にはめるための演出だったが、アサシン・ナイフで襲い掛ってくる彼女の気迫は凄まじかった。
まさに 鋼鉄の処女の二つ名にふさわしい冷酷無比の残忍さ。フラットのトラウマになるのも道理、形振り構わず怯える彼に 同感と同情を禁じ得ない。
「 帰るっ! 明日にでも、いや 今すぐ俺はティリッヒを出る!
金は要らん! マネーカードは返すから この契約は無かった事にしてくれ!」
「いやいやいや! ちょい待ち、待ってくれ!
大丈夫だから! 逆鱗に触れさえしなきゃ 殺 さ れ た り しないから!!!」
「なぁなぁ。俺 この間 サム姐さんに 高圧洗浄機 で襲われた。死ぬかと思ったぞ?」
「コンポン! そりゃお前がシャワー サボったからだ!
5日過ぎるとあの姐さんに 改造高圧洗浄機で洗われるって、この前説明したろーが!」
「 放せ!この仕事は 断 固 断 るっっっ!!!」
「お願い待って! 頼むからっっっ!!! 」
必死の形相で部屋の出口へ向おうとするフラットに、これまた必死にしがみつき 逃亡阻止を図るナム。
苛烈な攻防はフラットが力尽き、根負けするまで長く続いた。