第7章 激闘!バケモノ VS 化け物
11.そのドッキリ、命がけ!
セキュリティを気にしている場合じゃない。
ナム達はけたたましい警報音が鳴り響く中、地下の エネルギー制御室 を目指して突っ走った。
警備員達は全員モカのワイヤーソードの餌食になった。何も知らない一般人を傷つけるワケにはいかないので、致し方なく「男剥き」。追ってくる事ができない程度に恥ずかしい姿になってもらった。
「もぉやらないつもりだったのにぃ~!」
「でもお見事! マルギーには黙っててあげっから♪」
地下へ向かうエレベーターはICカードと網膜スキャンの二重ロックで使用できない。不法侵入者を探知して、閉じようとする非常階段口防御扉を蹴破り地下へ駆け下りた。
しかし地下階ではすでに防御壁が作動していた。エネルギー制御室へ続く通路は固く閉ざされてしまっている。
「くそ! リーベンゾルの武装兵共、時限弾仕掛けたのかよ?! このセキュリティだぜ!?」
「きっと味方がいるんだよ。エベルナの入区管理局の内部に。」
「なるほど。エネルギー制御室に出入りできて、禿ネズミの地下通路のパスワードも知っている。そんな野郎が一枚噛んでいやがるって事か。・・・ってこれ、どーするよおい!?」
打開策を求めて辺りを見回す。
その時、どこからともなく漂ってくる タバコ の匂いに気が付いた。同時にどっと冷や汗が吹き出し、イヤな予感に身慄いした!
「 ガキ共、どきなぁ !!!」
耳をつんざく女の声に、2人は慌てて床に伏せる。
現状打破する女の 凶器 は 機関銃。
しかも 回転式多銃身 。岩でも瞬時に粉砕できる、威力抜群の大物だった!!!
ドギャラララララララーーーっっっ!!!
頑丈な防御扉は木っ端微塵に吹き飛んだ!
「危ねえぇ!でもグッジョブ、サンクス姐さん!」
すかさずナムはモカと飛び起き、後ろも振り返らずに走り出す。
その後ろ姿を咥えタバコの ベアトリーチェ が、明るい笑顔で見送った。
「さってと♡ こっちは片づいたからダーリンのお手伝いでもしようかしらン♡
でも宇宙空港で重機関銃ぶっ放しちゃったらさすがにヤバいかな~? ん~、困っちゃう♡♡♡」
「重機関銃」を肩にヒョイと担ぎ、ベアトリーチェは足取りも軽く非常階段へ向かって歩き出した。
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エネルギー制御室に到着した。すぐに時限弾は見つかった。
制御室は基本無人。AIが管理するシステムで、無数の計器類やモニター画面が壁一面に瞬いている。
時限弾はすぐ見つかった。中央にある 司令デスク 、その上をカメラ搭載蜂型ロボがクルクル旋回していたのだ。
駆け寄って見ると案の定。ターミナル・ロビーで見た物と同じ造形の時限弾が、デスクの裏に貼り付けていた。
「あったぞレヴィちゃん!指示をくれ!」
ナムは腕時計の通信機に怒鳴った。
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「よっしゃ、先ずはタイマー表示されとる面とは反対の面を開けるんや!」
目の前で繰り広げられる派手な銃撃戦をよそに、スレヴィがKH時限弾をこじ開けた。
「箱にみっちり白いカプセル状のモンがハマっとるやろ?これがKH線放射物質や、間違ってもカプセル壊すんやないでぇ、KH線が漏れ出してまうからな!
ほんで、カプセルに 基盤 が取付けられてるやろ?切手くらいの小さいヤツや。
そいつの上をチラチラ走り回っとる光をな、電磁メスで一個ずつ潰して行くんや。
真ん中で瞬いとる大っきい光は最後やで!それだけはワイとナムはん、同時に焼き切ってしまわんと・・・って、うぉあぁ!!?」
いつの間にか敵が背後に回り込んでいた。
決死の形相の武装兵が、アサシン・ナイフを逆手に持ってスレヴィに襲いかかって来た!
咄嗟に身構えるスレヴィの頭上を、「ピンクのハートを抱きしめたクマ」が軽やかに飛行した。
バキッッッ!!!
武装兵は折れた前歯をまき散らしながら、白目を剥いてぶっ倒れた!
「おぉ、ナイスな曲線美!さすが87cmの大臀筋!!!」
マルギーが嬉しそうに笑う。
見事なソバットを決めたシンディが、真っ赤な顔でスカートを押さえ変質者を怒鳴り付けた!
「見ないでよ!あと、サイズバラすなー!」
「カッコよかったけど スカート下になんか履いとくべきだったね♪ クマちゃんパンツ、かっわい〜♡」
「うるさいっ!今それどころじゃないっ!」
確かにそれどころではなかった。
どっかんクッションのお陰で銃撃は防げている。しかし、不気味な緩衝剤のバリゲートで銃は無効と判断した武装兵が 接近戦を試み始めた。今の蹴り倒された武装兵のように、四方八方から間合いを詰められ直接襲撃されつつある。
バァン!
派手に破裂音が鳴り響き、ターミナルロビーのあちこちで一般市民の悲鳴が上がる。
敵が投入してきた 手榴弾 が破裂したのだ。どっかんクッションの中を目がけて飛んできたのだが、気付いたA・Jが何とか阻止した。宙を飛ぶ手榴弾を弾が掠めるよう狙い撃ち、明後日の方向に吹っ飛ばした!
見事な腕前だと言える。しかしそれでも限度はあった。
残弾が少なくなってきている。A・Jは忌々しげに舌打ちした。
「おいチビ!今蹴り倒した奴、銃 持ってたら全部寄越せ! 予備弾倉も忘れるな!」
「はぁ?! チビってなに!? アンタ、誰に命令してんのよっ!」
苛立つA・Jに噛みつきながら、シンディがスカートを翻す。
次に襲ってきた武装兵はいきなりショット・ガンを突きつけてきた。そいつの顎に狙いを定め、アッパーカットを叩き込む!
( ヤダ、楽しい♡♪!)
仰け反り吹っ飛ぶ武装兵を尻目に、シンディは物騒に身震いした。
そのこめかみに赤い光の点 が現れた。照準器の光である。アサシンライフルの銃口が、シンディの頭を狙っている!
「 !? シンディ !!!」
気付いたロディが目を剥き叫ぶ。
次の瞬間、アサシンライフルが火を噴いた!
カキィィィーーーーーン ・・・ !!!
「・・・え?」
何故か、ターミナルロビー中が水を打ったように静まり返った。
高く遠くこだましたのは、銃声よりも 金属音 。ライフルの弾を 跳弾 させた妙に綺麗な澄んだ音色に、誰もが耳を疑った。
「いいねぇ!最高強度の特殊合金は伊達じゃねぇ、さすが 俺様の義腕 ってヤツだ!」
ついでに誰もが目を疑った。
忽然と現れた 義腕の巨人 に、言葉を失い自失する。
そんな人々を満足げに眺め、 マックス はメタリックブルーの腕を撫でる。
彼は棒立ちになるシンディに目線を移すと、凶暴な笑みを投げ掛けた!
「いいパンチするじゃねぇか、チビっ子。
こいつぁ鍛え甲斐がある。喜べ、明日から俺が し ご い て やるぜ。」
「・・・ひいぃ!!?」
青ざめるシンディの頭を撫でると、マックスはどっかんクッションのバリゲートをヒョイとまたいで乗り越えた。
殺伐としたターミナルロビーの大通りに仁王立ちして、自慢の義腕をひけらかす。
「 OK。時間はねぇが遊んでやる。全員まとめて掛かってこい!!! 」
義腕の巨人のだみ声が、殲滅開始を宣言した。
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慣れない手つきで電磁メスを繰り、細かい基盤と向き合うナムは 汗だくになった顔を上げた。
「出来たぁ! レヴィちゃん、次は!?」
『よっしゃ、真ん中の光ってる部分をワイと同時に焼き切るんや!
最後やでぇ! ここで間違ごうたら一巻の終わりや、3つ数えるから合わせてや!
・・・3、2、1、そいや !!!』
モカが両手を握り合わせる。祈る彼女に見守られ、ナムは電磁メスの熱線刃を基板中央に押し当てた。
ジ ュ !
基板から細く煙が上がる。
( ・・・やったか?!)
電磁メスを床に投げ捨て、時限弾をひっくり返す。
タイマーが表示されたデジタル画面を確認するなり、血が凍る思いを味わった!
「 げっ、なんで !?
レヴィちゃん! 止まらねぇぇーーーーーっっっ!!!」
すでに10秒を切っている。
しかも時間を示す数字は規則正しく値を減らている!
『アカン! 失敗 やー!!!』
通信機の向こうからスレヴィの絶叫が聞こえてきた!
『ぎゃーーーっ、詰んだーーーーっっっ!!!』
『い”や”あ”ぁぁぁーーーっっっ!?!』
『こんなの、どっかんクッションじゃ防げないッスよ!!!』
『伏せろ! 全員、時限弾から放れて伏せろーーーっっっ!!!』
混乱しまくるA・J達が口々に喚く声も聞こえる。
ナムは時限弾をできるだけ遠くへ投げ捨てた!
「 モカ、逃げろ!」
「1人じゃイヤ! 死ぬなら一緒にっ!」
「え、ホント♡・・・じゃなくって! ひぃぃぃぃぃ!!!」
どうしていいかわからない。
辺りをオロオロ見回すモカに、咄嗟に飛びつき床に伏せた。
死が目前に迫る中、不意に脳裏をよぎった面影に思わず内心舌を打つ。
( なんで 局長 を思い出すんだ、ぶん殴りたくなるだろ!!! )
覆い被さるようにしてモカを抱きしめ、歯を食いしばり目を閉じた。
爆発までの数秒間。長い、とても長い時間だった。
それこそ、「数秒」などではなくて、「数分」くらいに感じるほどに・・・。
( ・・・ あ れ ??? )
恐る恐る、目を開ける。
腕の中で縮こまってるモカと目が合った。怯え戸惑う彼女もまた、困惑しているように見える。
( 爆発・・・し な い ??? )
ナムはモカを抱き起こし、2人で床に転がっているKH時限弾に近づいた。
デジタル画面のタイマーは 『00:00:01』 。
もう動いていなかった。時限弾は完全に停止しているようだった・・・。
『・・・驚いたやろ?』
通信機からスレヴィの声がする。
『 実はもう 止 ま っ と っ た んや♪
この時限弾造ったヤツ、万一解除された時の腹いせに タイマー表示がギリギリまで動くようにプログラムしたんやな。性格悪ぃ奴っちゃで、まったく♪
もう爆発せぇへんで。 この勝負、ワイらの勝ちや! 気分エエな、だーっはっはっは♪♪♪』
愕然となるナムの耳を、義腕の巨人の怒声がつんざく。
「・・・っざけてんじゃねぇ このクソガキがぁ!!!」
バキッ!!!
ケタケタと笑うスレヴィの声は、打撃音に消し去られた。
「・・・。」
ナムはモカを見た。
「・・・。」
モカもナムを見つめていた。
2人はなんとも言えない表情で、暫しの間見つめ合った。
そして同時にへなへなと 床の上にへたり込んだ。