第7章 激闘!バケモノ VS 化け物

10.宇宙空港の攻防

厚化粧の女性記者がクールを装い、カメラに向かって話し出す。

「はい、エベルナ宇宙空港です。
今 私は太陽系中から集まった報道陣で溢れかえりそうなゲートターミナルのロビーにいます。
1時間ほど前に出された 地球連邦政府軍によるエベルナ宙域の規制 により、足止めされている状態です。軍はこの規制を『ハルモニアの暴露』と呼び称される一連の騒動を収拾するためとしていますが、依然『リーベンゾル後宮の生存者』の情報に関しましては事実確認中の姿勢を崩していません。
騒動の発端となった元アイドル、ハルモニア・ディアーズさんは、現在軍公安局に身柄を拘束されているものと思われ、地球連邦政府内では父親であるディアーズ事務次官の責任を問う声も上がっている模様です・・・。」

ロビーの人混みを掻き分け走るマルギーがA・Jに声を掛けた。
「あのスパイ・アイドル、もう頭に『元』が付いてるよ?」
「当然だ。もうアイドルなんかやってられるか!」A・Jが苛立たしげに辺りを見回す。
「ディアーズ事務次官ももう終わりだ。あの親子、どっちも裏じゃ相当えげつない事やってたらしいからな。」
「そんなのどうだっていいでしょ!?早く爆弾探さないと!」
シンディが口をとがらせる。
背の低い彼女はすっかり人に埋もれ、見回してみても報道記者達の背中しか見えない。

「イライラするわ!コイツら全員どつき倒してやろうかしら!?」
「止めろ。銃で一掃した方が早い。」
「エーチャン、チビちゃん、落ち着いて!」

本気の目をした2人に驚き、マルギーが叫んだ時だった。

 ピピッ!

シンディのピンクのリストバンド。それに仕込んだ通信機が鳴った。
『あった!あったッスよ!』
回線を開くなりロディががなり立てた。

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「・・・うわぁ、こんな所に。」
 マルギーが怯えたように呟いた。
巨大なマーメイドのブロンズ像が中央にそびえるロビーの噴水。脇には簡易ベンチが幾つも備え付けられている。
その一つに、KH時限爆弾それはあった。
今までのカプセル型と違い四角形。分厚いハード本ほどの大きさで、ファーストフード店の紙袋に包まれベンチの下に置かれていた。
表面がデジタル画面になっている。映し出された残り時間は『00:08:10』。スレビィが袋から爆弾を取り出し、電磁メスを片手に調べ始めた。

カメラ搭載蜂型ロボスパイ・ビーを使っての発見ではあったが、この広い宇宙空港での捜索に一役買ったのは何といっても スレヴィ だった。
彼は入手した宇宙空港見取図を見るなり、爆弾が仕掛けられたと思われる場所を数ヶ所に絞り込んだのだ。

花火爆弾を仕掛けるんはな、どこが一番敵を倒せるかっちゅうのを考えてやるもんなんや。」

そう言って、一番可能性が高いと指摘したのがマーメイドの噴水脇。
ロビー中央のターミナルの分岐点であり、待合所も兼ねるこの場所は、人の行き来が非常に多い。2階~3階が回廊になってる吹き抜けの構造で、時限弾が炸裂すれば、熱線・爆風は宇宙空港の隅々にまで行き渡る。
そうなったら被害は甚大。誰1人助からなかっただろう。ナムはスレビィを賞賛した。
「スゲェなレヴィちゃん!マジ助かった!」
「イヤ、ロディちゃんのカメラ搭載蜂型ロボスパイ・ビーってのも優秀や。
なぁロディちゃん、ワイと手ぇ組んで商売せぇへん? メッチャ売れるでぇ、それ。」
「今はそれどころじゃないッスよ!
ナムさん! 最後の一つ、見っけたッス! A棟で聞いたとおり地下の エネルギー制御室 にあるッスよ!」
守銭奴の誘いをつれなくかわし、タブレットをのぞき込むロディが早口で告げる。
地下へ向かう業務員通用口はここから約50m先。ナムは頷き、スレビィの肩を軽く叩いた。
「よし、俺が行く!レヴィちゃん、一緒に来てくれ!」
しかし。
「アカン、一緒には行かれへん。」
引き攣った顔のスレヴィが、首を小さく横に振る。

「こいつ、もう一個の爆弾と 連動 しとる。
2つ同時に止めなアカン。片っぽだけ止めたら即ドッカーン、や!」

「・・・マジっすか???」
ナムが呟いた時だった。
「 伏せろ !!!」
A・Jが銃を抜き、2階回廊目がけて撃った!

 ド ン!

回廊の欄干から身を乗りすようにして、ライフルを構えていた 武装兵 が腕を押さえて蹲る。
彼がA・Jより一瞬遅く撃った弾は大きく反れ、マーメイド像の首に命中した。
吹っ飛び砕けた人魚の首に、ターミナル・ロビーは騒然となった!
「 敵襲!?」
「ひぃぃ、マジッスか!!?」
マルギーがベンチや植木を倒してバリケードを造り、それにロディが「どっかんクッション爆弾」をぶつけ補強する。
全員、その内側に転がり込むなり弾丸の嵐に襲われた!
「時限弾狙って撃ってきやがったんかい!? 冗談やないで!」
「信じらんない! アイツら爆弾と心中する気?!」
「玉砕覚悟なんだろ!何が何でも宇宙空港ここを爆破する気だ!」
「ナニそれ、頭イカれてるわ!」
「どっかんクッション、打ち止めッスヤバいッス!・・・って、あれ?」
騒ぐ仲間をグルリと見回し、ロディが顔を青くする。

「いない?!ナムさん、どこッスか!?」

「なに?!」
銃の残弾を調べていたA・Jが血相変えて振り向くと、彼の後ろで縮こまっているシンディのリストバンド型通信機が鳴り、ナムの陽気な声がした。

『ロディ、通信機と工具、借りてくぜ。』

「え?あ、いつの間に?!」
ロディは茫然と右手を見つめた。彼の通信機は腕時計型。工具も腰のウエストポーチに入れていたはず。それらがキレイに無くなっていた。

『レヴィちゃん、爆弾見つけたら連絡する。そん時止め方教えてくれ!』

「しゃーないな、了解や。」
時限弾抱えるスレビィが肩を落として苦笑した。
笑ってる場合ではないが、なぜか危機感があまりない。そんな呑気な笑顔だった。

『A・J悪ぃそこは任せた!健闘祈る、よろしくな!♪』

「リグナム、貴っ様ぁぁぁ!!!」
怒れるA・Jの雄叫びは届かなかった。通信はブツッと断ち切られ、可愛いピンクのリストバンドはウンともスンとも言わなくなった。
「おのれぇぇ!!!」
戦慄くA・Jを乱暴に押し退け、シンディがロディにすがりついた。

「ロディさん、いない!
モカさんもいなくなっちゃってる!!!」
「えぇ!!?」

 ズガーーーン!!!

弾丸の豪雨に晒されたマーメイド像が、とうとう根本からぶっ倒れた!
頭を抱えて伏せるマルギーが、時限弾のデジタル画面を横目で見る。

『00:06:03』。

状況は 最悪 だ。

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行く手を阻む通行人や報道関係者達は、申し訳ないが蹴散らした。悲鳴と怒号が交錯するターミナルロビーを、ナムは全速力で突っ走る。
従業員通用口の扉前に着いた。ここから先は強行突破。地下の エネルギー制御室までの道筋は頭の中に叩き込んである。空港警備員に邪魔されるだろうが、何とか突破し辿り着かなければならない。
気合い充分で目の前の扉を蹴り上げようとした時だった。
Tシャツの裾を強く掴まれ、ナムは驚き振り返る。

「モカ!?」
「足・・・速いねぇ・・・。」

必死で追いかけて来たらしい。モカが息を切らして笑っていた。

「な、なんで?!」
「連れてって! 一緒に行く!」
「えぇ!?いや、でも・・・。」
「このままみんなの足手まといになるなんて嫌! ナム君、お願い!」
「・・・。」

自分を見上げるモカの目を、ナムはジッと見返した。
あの時と同じ目だった。火星基地のシャワー室でキメラ植物と共闘した時の、強い闘志を秘めた双眸。コレならイケると判断した。
それどころか、心強い。
妙にやる気が漲るのを感じ、再び通用口扉と向き合った。

「よし行くぞ! 残り時間 あと約5分!」
「はい!」

モカの頼もしい返事を合図に、扉を思い切り蹴破った。

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