第4章 闇の国の復活
4.7日間の粛正
大戦終結後も リーベンゾル は不気味な沈黙を守り続けた。
その内状を探ろうと、地球連邦政府軍は幾度も諜報部隊を送り込んだが、まるで情報は得られなかった。どの部隊も 行方不明 となり、誰1人帰って来なかったのだ。
しかし、今から6年前。
ただ1小隊、件の国の内状を報告した隊がある。
雇われ傭兵で編成されたその小隊も帰還する事はなったが、消息を断つ前たった一度だけ 通信 があった。
瀕死と思われる無名の傭兵。彼が宇宙無線で告げた言葉は、地球連邦政府軍はもちろん、太陽系中の人々に計り知れない衝撃を与えた。
「リーベンゾル・ゴルジェイ、所在掴めず。その生死、不明。」
この報告以降、リーベンゾルから大量の 難民 が流出するようになった。
彼らの口から語られたのは、混乱極めた国内情勢。領土各地で現政権への反乱が起き、リーベンゾルは激しい内乱状態にあるというのだ。
原因はゴルジェイの 独裁 による 恐怖政治 。
リーベンゾルには「大戦」時、戦災難民を大量に国内に受け入れていた。
彼らは激しい戦火を命辛々潜り抜けて来た。
「英雄」ゴルジェイがいるリーベンゾルまで辿りてくまで、やっとの思いだったに違いない。
しかし。
そんな彼らを ゴルジェイは裏切り、死 と 暴力 で支配していた。
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「そりゃぁ悲惨なものだったそうだよ。
私財を巻き上げ重税を課し、苦役を強いて自由を奪う。先住民とは格下の者と差別されて虐げられた上、見目良き女性は年齢問わず 拉致され帰って来なかった。
逆らった者は即逮捕。裁判なんかありゃしない。拷問で済めば幸運で死罪になるのが当たり前だったそうだ。
紛うかたなく 暴君 だね。」
「 じゃぁ、どうして 行方不明 になったの? もしかして反乱した人達に倒されちゃった???」
首を傾げて聞くフェイに、アイザックは首を横に振る。
「 さぁね。それはわからない。
残念ながら彼の行方は現在もわかっていない。なんてったって捜し出そうにも、リーベンゾルが あんな事になっちゃったからねぇ。
『7日間の粛正』って、聞いた事あるかい?
地球連邦政府軍が強行した、リーベンゾルへの 大規模空爆 だよ。」
初めて聞く事らしい。
フェイは不安げに目を見張った。
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恐怖政治に反旗を翻した者達によって、リーベンゾルは泥沼の内乱状態に陥った。
その戦火はリーベンゾル国内に留まず、周辺宙域に飛び火した。
「大戦」の傷癒えやらぬ冥王星宙域は荒れに荒れ、戦火は拡大の一途を辿った。
この事態を重く見た 地球連邦政府 は再び 愚かな決断 を下してしまう。
『 外惑星エリアの 治安回復 のため 戦災の根源 を絶つ!』
リーベンゾル国 殲滅 作戦の始動 。
小惑星「21××YU5」に宇宙戦艦隊を派遣し 全土空爆 に踏み切ったのである。
1週間にもわたる激しい空爆だった。
宇宙戦艦隊14機の主砲・副砲一斉砲火による 絨毯爆撃 だったという。
首都以外の主要都市には 都市破壊型ミサイル まで使用された。
「大戦」末期に開発された 有害放射能KH線 。使用されれば半永久的に大気や土壌を汚染し続ける極めて強い放射線物質を、弾頭ミサイルに搭載したのだ。
小惑星上に点在していたリーベンゾルの全ての都市は、首都のほんの一部以外は完膚なきまでに破壊された。
死者・行方不明者の数は不明。連邦政府軍は「敵地ゆえに試算不可」として数えようともしなかった。
後に 「7日間の粛正」 と称される 大空襲は、再び多くの戦災難民を生んだ。
しかもこの「粛正」の後、地球連邦政府はリーベンゾル国滅亡を宣言。「もはや脅威は去った」として、外惑星エリアから主力艦隊、駐屯軍隊を一斉に引き上げさせたのだ。
非道な空爆を何とか生き延びたリーベンゾルの民間人は、焼き尽くされた廃墟に放置された。
一度生じた火種が燻る外惑星エリアの難民達も、救助も救済もなくうち捨てられた。
「リーベンゾル大戦」終結から10年、「7日間の粛正」から6年。
今でも彼らは戦火の傷跡にもがき苦しみ、明日も見えない過酷な暮らしを余儀なくされているのである。
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『・・・繰り返します。今日未明、外惑星エリア・宇宙ステーション『アリエル』で、旧 リーベンゾル国 元首の実子を自称する男性が 国の復活 を宣言しました。
地球連邦政府および連邦加盟各国は、事実確認を・・・。』
アイザックの説明が終わった後も、TVニュースのキャスターはひたすらに同じ原稿を読み続けている。
( ・・・面倒な事になったなぁ・・・。)
ナムは食堂の壁にもたれ、頭の後ろを掻きむしった。
「大戦」終結当時、ナムはまだ7歳だった。
比較的戦火の少ない宙域で生まれ育ったせいもあり、「大戦」については「地球人類が半分以下の数になった戦争」としか認識がない。
( リーベンゾルの復活っつったって、今更復活してどうするってんだよ?
また戦争起す気だったらヤバいけど、さすがにそりゃないんじゃね? みんなビクつきすぎだっての。
・・・まぁ、外惑星エリアはまたごちゃつくだろうけど。世界情勢ってヤツが荒れると厄介な仕事が増えるんだよな。
まぁた忙しくなっちまう。しんどいな~・・・。)
この時、ナムが リーベンゾル に抱いた思いは、まだこの程度でしかなかった。
「・・・やれやれ。同じ事しか言いやがらねぇ。」
マックスが首を振りながら苦笑した。
動揺を押し殺したかような、どこかわざとらしい笑みだった。
「おい、 カシラはどこだ?」
「まだ局長室です。お呼びしますか?」
平静を装いカルメンが応える。声が微かに震えていた。
「いや、いい。・・・飯にしよう。
リーチェ、スマンがビール持ってきてくれ。」
TVを睨むベアトリーチェが、肩に担いだランチャーをロディの腕に押しつけた。
重さによろめく彼を尻目にキッチンへと踵を返す。
その時だった。
TV画面のニュースキャスターが、急に声を荒げたのは!
『地球連邦政府は事実確認を・・・。
えっ!映像?!
い、今 映像 が届きました!
ゴルジェイの実子を名乗る人物の 復興宣言の映像 ですっ!!!』
ニュースキャスターの絶叫に、席に着こうとしていたナム達は弾かれたようにTVを見た!
「おいおい、飯くらい食わせろや・・・。」
凄みある顔強張らせ、マックスがぽつりとつぶやいた。