第3章 シャワー室の共闘

2024年11月2日

5.キメラ獣を使ったヤツは


「おら、土産だ!」

植物型キメラ獣の駆除から戻ったベアトリーチェが、拳大の何かを放り出した。
食堂のテーブル上に落ちて転がる 黒い小型の電子機器 。すでに壊れて動いてないが、それを見るなりロディの目が爛々と輝き鋭くなった。

「 人工頭脳・・・いや、違うッスね。コイツは 脊椎動物用の操縦器 ッス。
脳幹部分に取付けて意思と行動を遠隔操作する物ッスよ。
驚いたな。あの植物型キメラ獣、脳髄があったんッスか?」

「あったわよ♡ それ、脳ミソの下にくっついてたの♡
・・・引き千切ってやったけどな! 」
荒くれモードのベアトリーチェが忌々しげに吐き捨てる。
「惨い事するわね。キメラ獣に罪はないでしょ?
 八つ裂き なら送り込んだ奴にするべきだわ。喜んで手伝うわよ?」
「・・・。」
捕えたものを血まみれにする鋼鉄の処女アイアン・メイデンの名は伊達じゃない。サマンサの物騒な発言にシンディがブルッと震え上がった。
テーブル近くの椅子に座るテオヴァルトが苦笑した。
「そんじゃ、先ずはその八つ裂きにされる奴を探らねぇとな。
リーチェ、あの可哀想なキメラ獣に 識別ナンバー の表示はあったのか?」
「有るワケねぇだろ、そんな身バレするようなモン!」
「・・・なぁなぁ、シキベツナンバーってなんだ?」
会話に割り込むコンポンに、カルメン・ビオラが説明する。
(ちなみに、ビオラは服を着ていて、Tシャツ・チノパン姿である。)

「キメラ獣の個体に付けられる管理番号だ。
まともな施設で造られたヤツなら、体のどこかに刻み込まれてる。」
「数字とアルファベットが入り交じった15桁のナンバーよ。
種と製造地、生産組織と所有者がわかる形になっているの。」

「じゃ、あのキメラ獣は 違法 に造られたヤツだったの?」
恐る恐る尋ねるフェイに、テオヴァルトがまた苦笑した。
「違法っちゃ違法だな。
太陽系中どの国でも『大戦』が終わっちまった10年前からキメラ獣の製造・飼育は厳重禁止で重罪だ。 表向き はな。」
ナムから返してもらった「髭剃り用のナイフ」。それを手元で玩んでいた彼は、切先をヒョイとアイザックに向けた。

「わかるか?」
「ま〜ね〜。」

食堂の壁掛けTVと向き合うアイザックが、振り向きもせず頷いた。
観ている番組は らぶみょん20 のライブ放送。
筋金入りのアイドルオタクはTVに釘付け、振り向かないのも道理だった。

MCミッションコード1 Dワンディの事前調査で、あのバイオテクノロジー研究所がキメラ獣造ってンのは把握済み。
あっちこっちの武装組織にコッソリ売りさばいてんのもね。
データもちゃ~ん押さえてあるよン。
間違いないね。あの哀れなキメラ獣ちゃんは、そこで製造された子だ。」

「やっぱり! でも、なんなんッスかね?」
ロディがごん太眉毛を顰めた。
「今回のミッション、あの研究所の依頼っしょ?
ご依頼どおりに産業スパイを見つけてやったじゃないッスか。なのにクライアントが俺達襲うとか、ワケ分んねぇッス!」
「ノンノン。
造った のは研究所でも 使った のは別組織さ~。」
「え?」
TV画面で陽気に踊る少女達の生足を、舐めるように眺め回していたアイザックが一瞬だけ振り向いた。
やや真剣な顔つきだった。すぐにTVに向き直り、再び生足愛で始めたが。

「そのキメラ獣ちゃんね、研究所の取引データじゃ『出荷済み』になってる子なの。
購入したのは存在しない嘘八百の偽企業。正体はもうとっくに特定してっけどね~。
 地球連邦政府軍・火星駐屯基地旅団。
コレは俺の想像だけどね、連中、件の研究所と 手ぇ組んだ んじゃないかな。
キメラ獣の密造密売、コイツを取り締まるのは警察なんかの仕事じゃない、軍の仕事だ。
自分達の管轄地でやらかしてンのに、摘発に向けた証拠集めに場末のチンピラパシリにしてる。潜入調査に至っちゃ、強姦魔アルバーロにやらせてるんだもんね。
そんなユルい仕事してんだもん。連邦政府軍で 一番ヤバい危険な奴ら に目ぇ付けられたって仕方ないってお話さ。」

「呆れたね!
 アイツら が出張ってくるなら、今更摘発するより 隠蔽 しちまう方が安全だって踏んだんだな?!」
「やっぱりあのチンピラ共の取引相手は 連邦政府軍 のだったのね。
これだから田舎惑星で燻ってる出世に縁の無い雑兵共は!」

いきり立つカルメン・ビオラに、不機嫌そうにシンディが聞いた。
「ねぇ、ワケわかんないわ!今の話と基地が襲われたのと、何の関係があるってゆーの?
あと、アイツらって誰?
連邦政府軍で一番ヤバい危険な奴らって???」
「後でいろいろ教えてあ・げ・る♡
今はもっと現実的な話を進めていきましょぉね♡♡♡」
ベアトリーチェがやんわりと、シンディの口出しを窘めてからタバコの箱を取り出した。
一本咥えて火を付けた瞬間、荒くれモードに切り替わる。凶暴な目をして笑う彼女は 上官 を見据えて問い質した。

「おい。このままにしとくワケじゃねぇだろうな??!」

「当然だ。
売られたケンカは喜んで買おう。」

即座に答えた 上官 は、局長リュイではなく 副官・マックス 。
上座の椅子にドッカリ座り、部下のやり取りを無言で見ていた 義腕の巨人 が立ち上がった!

「 出るぞ!
10分後だ、遅れた奴は置いていく!」

誰も返事はしないまま、傭兵達が動き出す。
「討入り」に行くのだ。殺気漲る彼らはみんな、口元に笑みすら浮かべていた。

「カルメン! 念のためだ、お前は諜報員のガキ共連れて退避しろ!
事が済むまでマルスに行って、安宿にでも泊まってりゃいい。
・・・そうだな、なんなら連邦政府軍のパシリだったチンピラ共、アイツら見つけてシメ上げとけ。
ビオラが派手にとっちめたそうだが、二度とバカやらかさねぇよう、徹底的にぶちのめせ!」

「 了解。 」
カルメンが律儀に一礼する。
それに頷き、食堂の出入口へ足を向けるマックスがふと立ち止まった。
「・・・言いてぇ事がありそうだな。なんだ?」
からかうようにニンマリ笑う。義腕の巨人が陽気に笑うと、元々凄みのある顔に迫力が加わり怖くなる。
不憫な笑顔を眺める ナム は確かに不満でいっぱいだった。

「 指示、副官が出すのな。・・・ 局長 は?」
「野暮用だ。気にすんな。」

サラッと一言言い捨てて、マックスは食堂から出て行った。
他の傭兵達が後に続く。遊園地にでも行くかのようなとても楽しげな足取りだった。
それを無言で見送った後、仲間達から1人放れて出入口近くに佇むナムは、改めて食堂内を見回した。
局長リュイだけじゃない。
 モカ が居ない。
シャワー室での共闘後、いなくなった彼女もまた、この場に姿を現さなかった。

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