第2章 ルーキー来襲!嵐を呼ぶファーストミッション

2024年9月26日

もう1匹のガキは、まだ工業地帯にいた。
マルス宇宙港行貨物置き場。その片隅で古びたベンチに腰を下ろし、隣に座るアルバーロの愚痴を延々と聞かされ続けている。
正確には、聞いてる振りしてまったく聞いてなどいなかった。
今 関心あるのは強くなってきた風のせいで、クシャクシャになったツインテールの髪。
(せっかく今日は可愛く結えたのに!)
シンディはちょっぴりふて腐れていた。

手先が不器用だから髪結いにはいつも苦労する。
しかし綺麗な赤毛の長い髪はシンディのご自慢。養護施設で習っていた空手の師範に「格闘技には向かないから切れ」と言われても、逆らい意地でも切らなかった。
もともと人に指図されるのは大っ嫌い。そういう性分なものだから、どの養護施設に行っても友達はほとんどできなかった。
施設の職員・先生達にも好かれない。寂しく悲しく辛かったけど、どうしても「可愛く」はなれなかった。
(だって先生達が言う「可愛い」って 変 だもん!
何でもハイハイ言う事聞いて、いつもニコニコしてなきゃならないなんて!
アタシ、そんなの絶対無理!!!)
シンディはいつも、1人だった。

だからというわけではないが、1人ぼっちの人を見るとつい世話を焼きたくなってしまう。
チンピラ達に捨て置かれたアルバーロ。彼が哀しそうに佇んでいるのを、どうしてもほっとけなかった。

「そりゃあね、採用された時は嬉しかったさ。
私のような3流大学しか出てないヤツが一流の研究員に混じって働けるんだ。感謝したよ、私を誘ってくれたあの人事部長には。
でもその人が急に辞めちゃってからというもの、周りの扱いが酷くなってねぇ。
底辺の大学出は使えない、とか、歳がイッてるから覚えが悪い、とか、みんなで陰口叩くんだ。
あんまりだろ?大戦で家族を亡くしてからずぅっと孤独で貧しい暮らしをしてきて、ようやく運が向いてきたと思ったらネチネチネチネチいじめられてさぁ!
しかもあんなチンピラに目を付けられて、犯罪者まがいの事させられて・・・。
私はいったいどうしたらいいんだ。こんな事バレてしまったら、もうお終いだ・・・!」

こんな話をかれこれ5回は聞かされている。
いい加減うんざりしてきたが、ふと気になって聞いてみた。
「だいたい、どーしてあんなチンピラなんかに協力しちゃってんの?
フツーにしてれば会う事もないような連中よ?」
「それは・・・大人には大人の事情があるんだよ・・・。」
アルバーロは言葉を濁した。
(もうヤダ、早く帰りたい。発信器、捨てるんじゃなかった。
取付けられてるの見つけた時はムカついたから捨てちゃったけど、よく考えたらアレがなきゃ、アタシ誰にも見つけてもらえない!
気が付いたらフェイもコンポンも居なくなってるし。もぉ! こんなおじさん、放っときゃ良かった!)  
シンディはこの「単独行動」をさすがに後悔していた。
(勝手なマネして、ナムさん怒ってるだろうな。
「局長」にもまた殴られかも。もう誰も庇ってくれないかもしれないな・・・。)
気分がどんどん落ち込んでいく。ひどく心細くなってきた。
だから 油断した。
突然、アルバーロの目の色が変った事に、シンディはまったく気付かなかった。

「・・・キミ、可愛いねぇ♡」

ねっとりとした気持ち悪い声だった。
驚き振り向いたシンディは、いきなりうつぶせに押し倒された!
「ちょっと、何すんのよ・・・!」
首をねじ曲げ抵抗する。その目の前にギラつく物が突きつけられた。
子供の首など一気に切って落とせるような、大型ナイフの刃だった!

「初めて、だよね?
大丈夫、優しくして・・あげようねぇ♡
いい子でおとなしくしてたら、殺 さ な い で あげるからねぇ~・・・♡♡♡」

全身が総毛立った。
別人のようにイヤらしく笑うアルバーロが気色悪い。ギラギラする血走った目、興奮して荒ぶる息づかいと口臭と加齢臭が混じり合った匂い。何もかもが気色悪い。
発狂しそうな嫌悪感。喉元まで出掛る悲鳴は恐怖が苦しくせき止める。
(イヤっ、助けて・・・!!!)
醜い現実から逃げるように、シンディは固く目を閉じた!

 ゴ ン!!!

強く掴まれ締め付けられていた腕が、解放されて自由になった。
ついでにのし掛かっていた獣の重みも急に消え失せた。シンディはベンチから転がり落ち、地面を這うようにして逃げた。
充分距離を取ってから、恐る恐る振り向いた。
そこに居たのは テオヴァルト 。
彼の片手に襟首掴まれぶら下がっているアルバーロは、酷くど突き倒されたらしく白目を剥いて気絶していた。

これ・・がマフィアに協力する事になった 理由 だ。
未成年を襲う札付きの 強 姦 魔 。研究所にバレたらあっという間に懲戒免職、そりゃ脅せば何でも言う事きくだろうさ。
・・・ところで、お嬢ちゃん。
お行儀習った養護院とやらじゃ『知らないオジサンについて行っちゃイケません』とは教えてくれなかったのか?」

「・・・。」
さすがに何も言い返せない。
シンディは項垂れた。

「 シンディ !!!」
テオヴァルトと一緒に駆け付けた ロディ が慌てて駆け寄ってきた。

「テオさん、スンマセンッス!
シンディ、大丈夫か!? 怪我はないか!?」

・・・ うわあぁぁぁ~~~ん !!!
兄貴分の優しさに、シンディは声を上げて泣き出した。

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