第2章 ルーキー来襲!嵐を呼ぶファーストミッション

2024年9月26日

6.修羅場に消えた子供

新人ルーキー2人を背中で庇い、ナムは周囲を見回した。
さっき自分で言ったとおりにあっという間に取り囲まれた。その数約20人。一個小隊の人数である。
しかも全員完全武装。セーフティ解除の銃を構える臨戦体勢の状態だった。

「お前ら、ここで何してる!?
そこから出てこい! 両手を頭の後ろに回してだ!」

一番先に駆けつけて来た警備員が、声を荒げて銃口を向ける。
仕方なく、新人ルーキー2人の襟首掴んで植込みの影から歩み出た。
陽気に笑ってホールドアップ。誤魔化せるとは到底思えないが、一応戯言ほざいてみる。
「いや~、弟達とキャッチボールしてたらボールがここに飛び込んじゃって♪
ちょっと! 子供相手に銃突きつけるとか、どうなのそれ?!」
「ふざけるな! 手は上じゃない、頭の後ろだ!」
「へいへい。おっかねぇな、も~。
・・・お前らはご要望にお答えしてその辺伏せてろ!」
新人ルーキー2人に指示を出し、上げていた手を後ろに回す。
そのままジャケットの背中に手を入れ、仕込んでいたモノを引っ張り出す。
長さ30cmほどの 棍棒 。
片方先端に付いている小さなレンズ。そこに親指を押し付けると両端が伸び、棍棒はナムの身丈ほどの長さになった。
棍棒がにぎられている。丁度真ん中に付いた小さなレンズに親指を押し付けると、

「うわ、カッコいい!♪ その武器が。」 
「お前、一言多いぞ!?」

コンポンの声援(?)を受けたナムは地面を蹴って走り出す。
先手必勝、不意打ちである。棒の先で利き手を打ち据え、狙撃を封じて叩きのめす。
素早い動きで相手を撹乱、隙を狙って棒の切っ先をみぞおち目がけて突き入れる。
仲間が次々倒されていく中、警備員達は混乱した。闇雲に銃を撃とうとしている者までいる。そんな輩が握った銃は、真横からの衝撃に弾け飛んだ。
ナムは植込みの向こう、雑木林に目を走らせた。
特殊な暗視スコープを装着した スナイパー が、愛銃を構えて狙っていた。

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警備員の最後の1人が、ナムの棍棒の餌食になった。
一息吐く間はまるで無かった。もの凄い勢いで駆けつけて来た カルメン が、大きく振りかぶったのだ。

 バ キ ッッッ !!!

身長差を考慮して繰り出されたのは、カルメン渾身のジャンピング・パンチ。
脳天に食らった一撃に、目の奥で星が瞬いた。

「お前はまた!
心配して来て見りゃ案の定だ、なんで毎回修羅場になるんだ この脳筋爆裂おバカ野郎!」
「今回は俺の所為じゃねぇよ! 事故だ、トラブルだ!」
「お黙り! モカから聞いたぞアホンダラ!
お前が蜂蜜女ビオラなんぞに気ぃ取られて新人ルーキー達から目ぇ放したのがそもそもの原因なんだろーが!
これだからこのアホは!
局長の言ったとおりだ、しっかり監視しててよかったよ、ったく!!!」
「あ”ぁ”!? 冷血暴君に見張ってろって言われたってか?!
っっっざけやがって あの野郎! なにが指揮官コマンダーだ、やっぱただの子守かよ!?
冗談じゃないぜ! こんなど素人のチビ共連れてりゃ碌な目にあうワケ、な、い・・・。」

姉貴分と言い合う最中、ふと振り向いたナムは異変に気付いた。

「おい、 フェイ どこだ!?」

地面に伏せていたのはコンポンだけ。
辺りを見回す彼の横に、ついさっきまで一緒にいたはずの フェイ がいなくなっていた!
「・・・ったく、世話の焼ける!」
カルメンが暗視スコープの倍率を上げ、周囲を見渡しフェイを捜す。
しかし。
彼女は即座に血相を変え、ナムに飛びつき押し倒すようにして地面に伏せた!

 ババッ! バババッ! ズバッ!!!

2人が立っていた地面が弾け、綺麗な芝生がズタズタになった。
消音器サイレンサー付アサシン・ライフルの狙撃!?
マジか?! 警備員なんかに使えるシロモンじゃねぇぞ!?」
「新手だ! ただの警備員じゃない、コンバット・スーツ着た連中が林の中に潜んでる!」
覆い被さるカルメンの言葉に血の気が引いた。
コンバット・スーツ着用の新手、つまり、警備のプロではなく 戦闘のプロ の敵襲である。
バイオテクノロジー研究所が独自に組織する 私設警護部隊 だ。銃の撃ち方に逡巡がない。おそらく「捕縛」ではなく「抹殺」が目的なのだろう。

「な、なに?どしたの!?」

ジッとしていろ、伏せていろ!
そう声を掛けるのが遅れ、コンポンが驚き体を起こす。

 ババッ!

彼の左頬を何かが掠め、すぐ横の芝生が土片をまき散らした。
コンポンの顔が引きつった。左頬から血が溢れ出し、芝生を握った手の甲に落ちる。
「コンポン!」
ナムは飛び起き、愕然と固まる彼を抱えて立木の裏へと転がり込んだ。
1歩遅れてカルメンが続く。雑木林の闇の中で、何かが蠢く気配がした。次の襲撃が来る。逃げる隙など微塵もない!
Shit畜生!」
愛銃を構えるカルメンがもう一丁銃を抜いた。

「リグナム、そのチビ連れて逃げろ!」
「嘘だろ?! 1人で残ってどーする気だ!?」
「足手まといなんだよ! いいから失せろ! とっとと行け!」
「二丁拳銃で時間稼ぎ? 通用するかよ、姐さん 死 ぬ ぞ!!!」

ビクッ!

腕の中で萎縮しているコンポンの小さな体が跳ねた。
半ば放心していた彼は突然、悲鳴を上げて錯乱した!

ぎゃあぁーーーっ!!! 嫌だぁーーーっっっ!!!

「コンポン?! おいっ!?」
狂ったように暴れる子供を慌てて抱きしめ押さえ込む。
ナムが口にした「死」の一言で、銃撃された瞬間感じた恐怖を思い出したのだ。コンポンの力は凄まじく、ナムの腕から逃れようとか細い腕を振り回し、身をよじって必死でもがく。
声を嗄らして泣き叫ぶ姿に、ナムは奥歯を噛みしめた。
( 姐さんの言うとおりだ。俺がもっとよくこいつらを見てやってれば・・・!)
こんな事にはならなかった。
少なくとも、まだ幼いコンポンを銃撃に晒し、死の恐怖に直面させる事などなかったはずなのに・・・!
ナムは迂闊な自分を責めた。

「・・・ん???」

ふと気付いて周囲を見回す。
そう言えば、誰も襲ってこない。敵の奇襲も銃撃もなく、辺りは静まり返っていた。
カルメンが両手の銃を指先に引っ掛け、くるくる回してフォルスターに戻す。それを呆然と眺めていると、雑木林の奥の方から巨大な人影が現れた!

「よぉ、クソガキ共。
1Dワンデイのミッションごときで派手にやらかしやがって、鉄拳制裁の覚悟はできてンだろうな?」

グッタリしているコンバット・スーツの男を両手に4,5人ぶら下げ、でニヤリと笑う 義腕の巨人 。
部隊副官・マクシミリアンである。
彼はナム達の前に、動く気配がまるでない男達をポイッと投げ捨てた。
「ふん! 手応えも歯ごたえもありゃしねぇ。
立て、リグナム。ここに居たもう1人の新人ルーキーがさらわれた。回収しに行くぞ!」
「 フェイ?! アイツ、さらわれたのか!?」
「裏手の通用門から不法侵入した連中が騒ぎに乗じてかっさらってった。
あのガキにゃ遺産相続のゴタゴタがあるってぇのは俺もカシラ局長も把握済みだが、こんなトコまで追っ掛けて来て拉致するたぁ強行手段に出たモンだ。」
「・・・。」
だとしたら、フェイが危ない。
一度暗殺に失敗し、戸籍を抹消させて尚狙う。その理由は不明だが、今度こそ命を奪おうとしているのは間違いない。
ナムはコンポンを抱きしめたまま、焦燥感に駆られて立ち上がった。
その時。

・・・ぎゃーーーーーっ!?
     キー メー ラー ぁぁぁーーーーっっっ!!?

義腕の巨人の凶暴な姿が 昼間の キメラ獣 と重なったようだ。
マックスの笑顔を凝視していた錯乱状態のコンポンが絶叫、白目を剥いて 気絶 した。
お陰でナムとカルメンは、フェイの救出に赴く前に凹んで落ち込むマックスを慰め、立ち直らせなければならなかった。

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風が強さを増しつつある。
研究所に向けていたスコープから目を離し、ピアスの通信機に問いかけた。

「輸送機の準備は?」
『完了してま~す。敵さんはお坊ちゃんを連れてマルス南をさらに南下中。
行き先は郊外の渓谷じゃないかな~?』
「・・・音楽切れ、うっとうしい!」
『らじゃ。らぶみょん20はお嫌いっすか?』

通信をぶち切った。
火星主要都市マルスは広い。アイドルオタクとの通信で聞いた方角、都市の南へ目を向けると、闇夜でも判るくらい不気味な雲が迫り来ていた。
砂嵐が来ればマルスから出られなくなる。早急にケリをつけなければならない。
ゴォッと音を立てて突風が吹き、電波塔を大きく揺すった。
両足がふわりと浮き上がる。そのまま風に身を任せ、暗闇の宙へ飛び込んだ。
遠くで雷鳴が轟き、風の音と共鳴した。

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