大魔女様は婚活中
5.ススキ野原から革命を
バァン!
大広間の扉を開け放ち、メイシャは外へと飛び出した。
皇帝 の話はまだ終わっおらず、退出の許可も出ていない。
とんでもない無礼である。しかしメイシャには堪えられなかった。
将来を誓い合った恋人が、他の女性と結婚する。
まだ15歳のメイシャにとって、その「勅命」は残酷だった。
闇雲に走った。
なにも見えず、聞こえない。ただ、突きつけられた非情な現実から逃げたかった。
足を取られて転んでしまい、やっと我に返って辺りを見る。
見渡す限りのススキ野原。
幼少時、恋人・キラ皇子と一緒に遊んだ思い出深いこの場所は、人がほとんど立入らない。
この原っぱで幼い2人は、大人達の目などを気にせず大事に恋を育んだ。
語り合い笑い合い、時にはケンカをしながらも、いつか一緒になろうと約束した。
その約束は、果たされない。
メイシャは声を張り上げ、慟哭した。
---(T-T)---(T-T)---(T-T)---
「余は魔法大国の 大魔女 と婚姻関係を結び、かの国へ赴く。
よって、玉座を降り 王弟・キラ に皇位を譲る!」
大広間の玉座から、ヤトマ国皇帝・ザウロ が宣言したのは、つい先刻の事だった。
「この婚姻は北の大国に不穏な動きがある今、必要不可欠であり決定事項である。
皆の者!キラはまだ若輩ゆえ、よく護り支え行くように!」
大広間に集められた大臣・家臣は一様に戸惑った。
確かに、魔法大国である大魔女の国と縁を持つのは得策である。大魔女の国同様、強大な魔法国である 北の大国 が力を付けつつある今、国防のためにも最良と言える。
しかし。
家臣の何人かが遠慮がちに振り向き、父と一緒に隅に控えるメイシャに目線を走らせた。
メイシャはヤトマ国軍魔道将軍・ウヅキの娘。
非常に将来を期待される魔道士見習いで、キラ皇子の婚約者。
しかし、そのキラ皇子が 皇帝 になるというのなら・・・。
大広間内に広がる動揺に気付いた皇帝ザウロが気が付いた。
彼は至極無神経に、余計な事を言い添えた。
「将軍ウヅキよ。キラとそちの娘の婚約は、当然 解消 になる。
しかし、そちの娘は魔道士として近年希に見る逸材だという。そのままにしておくのは実に惜しい。
それ故、娘には次期皇帝の妃 の側に仕える 護衛魔道士の任 を与えよう!
皇族に仕えるは魔道士として最高の栄誉、有難く思うとともにより一層精進させるが良い。」
皇帝の命令である。逆らう事など許されない。
しかし公衆の面前で婚約を破棄され、愛する人を奪う女性に 隷属 するよう言われたのだ。
平気でいられるはずはない。
メイシャはその場から逃げ出した。
---(T0T)---(>_<)---(T0T)---
・・・どれくらい、時間が経っただろう。
地面に突っ伏したまま泣き疲れ、まどろんでいたメイシャは顔を上げた。
誰かに呼ばれた気がしたのだ。
泣きはらした目をこらし、生い茂るススキの合間から辺りの様子をそっと窺う。
(キラ様・・・!?)
自分の目を疑った。
広いススキ野原を駆け回っている キラ皇子 が見えたのだ!
「メイシャ!・・・メイシャ、メイシャ・・・!」
ススキは葉の縁が鋭く皮膚を切る。それをかき分け彷徨うキラの手は傷つき血がにじむ。
それでも必死に、死に物狂いで広い野原を走り続けている。
何度も何度も、声を嗄らしてメイシャの名前を呼びながら。
「・・・メイシャ!・・・メイシャ!・・・メイシャ・・・!!!」
メイシャはこの状況を把握した。
追ってきてくれたのだ。大臣・家臣が居並ぶあの大広間から。
皇帝もまだ玉座に座していただであろうに、そのすべてを振り切って。
メイシャがこのススキ野原にいると信じ、捜しに来てくれたのだ!
(・・・キラ様! もう充分です!!!)
再びあふれる涙を拭い、メイシャは静かに身を起こす。
恋人の変らぬ愛情は、この目でしかと見届けた。
だから、誓った。
何があっても、堪えよう と!
(強くなろう、もっともっと!
あの人が他の女性を妻に迎えても、お側で笑っていられるように・・・!!!)
身を切るような決意を秘めて、メイシャは唇を噛みしめ立ち上がった。
しかし・・・!?
スパーーーーーン!!!
なんの前触れもなく、突然に。
メイシャは頭をハタかれた!!?
「!? ななな、なに?!!」
あまり痛くはなかったが、飛び上がるほど驚いた。
大慌てで振り向くと、知らない女性がそこにいた。
燃えるような赤い髪。挑むような鋭い目。
ローブを羽織った出で立ちからして、女性は「魔女」と呼ばれる存在のようだ。
この国では見た事が無い、遠い異国の者だった。
「なに?じゃないわよ、まったく!」
赤毛の魔女は怒声をあげた。
「あのね、勝手に『悲劇にヒロイン』とやらにならないでくれる?
迷惑なのよ!アンタんトコのお国事情で好き勝手利用されちゃうのは!」
「え?あ、あの、いったいなんの話、ですか?
・・・って、きゃーっ、キラ様!?」
いきなり怒られ怯えるメイシャは、思いがけないモノに気付いて思わず目を剥き悲鳴を上げた。
さっきまでススキ野原を走り回っていたキラ皇子。首の後ろをつまみ上げられた子猫よろしく、襟首掴まれて為す術も無く赤毛の魔女の手にぶら下がっている。
皇子自身もこの展開に頭が付いていかないらしい。目を丸くして魔女を見上げ、茫然自失になっていた。
「きゃー、じゃないっての、情けない!
泣くほど失いたくないのなら、ダメで元々、あがきなさい!
かわいそーな自分に酔ってたって、事態は何にも変りゃしないのよ?!」
赤毛の魔女は容赦無い。彼女は片手にしっかり掴んだキラの襟を持ち上げる。
「コレだって一生不幸なまンまだわ!
それとも、なに?
恋人が茨の道へ進撃しようってのに、他の女と結婚した上イチャイチャ出来ちゃうクズなのかしらね、コレは?!」
「!? ち、違います!キラ様はそんな方ではありません!!!」
「だったら、もっとしっかりしなさい!
コレのためにもアンタのためにも、できる事ならまだあるはずよ!
まだ何も考えない内からさっさと諦めてんじゃないわ!!!」
「・・・はい。」
有無を言わさぬ叱責に、メイシャはしょんぼり項垂れる。
その姿に赤毛の魔女が、フゥ、と小さく吐息を付いた。
「って、まぁアンタ達まだ子供だしね。
だからつい、来ちゃったわ。とても見てられないものね。」
「あの~、ちょっといいでしょうか?」
ここでようやく、魔女に「コレ」呼ばわりされたキラ皇子が口を開く。
「失礼ですが、どちら様???」
「どうでもいいわよ、そんな事!」
この現状下で一番肝心な事なのに、皇子の疑問はサクッと一蹴、切り捨てられた。
その代わり、メイシャを見下ろす魔女の目がほんの少しだけ優しくなる。
「アンタは末の妹そっくりだわ。
人のためには一生懸命頑張るくせに、自分の事には無頓着。
特に恋にはとことん弱気で、影でメソメソ泣いてばかり。
お人好しもいいトコね! そんなのほっとけるワケ、ないでしょう?
さぁ、行くわよ2人とも!
こう見えても忙しい身なんですからね。とっとと用件済ましちゃうわよ♪」
メイシャはキラと顔を見合わせた。
意味がよく分らない。金のローブを翻し、颯爽と歩き出そうする赤毛の魔女に、おっかなびっくり聞いてみた。
「い、行くって、ドコへ???」
「付いてくりゃわかるわよ。無駄口叩かずいらっしゃい!」
「・・・はい。」
問答無用、待ったなし!
まだ若い恋人達は、赤毛の魔女に引っ立てられてススキ野原を後にした。
・・・波乱の幕開けだった。
---!!?---!!?---!!?---
ヤトマ国皇家は「地の契約」で護られた一族である。
広大な領土を誇るこの国が豊かな地の恵みを得られるのは、遙か昔、キラ皇子の先祖が 地の精霊 とある「契約」を結んだからだと言われている。
「皇帝がこの地に暮す全ての命を護り導く責を果せば、地の精霊たる我はこの地に枯れる事なき富とを授けよう。
しかし、その約束を違えたならば、我の恵みは呪いに転ず。
皇帝は永遠の苦しみに捕らわれ、この地は不毛の荒野と成り果てるだろう。」
この契約の元、地の精霊は当時の皇帝に 契約の魔方陣 を授けたという。
ヤトマ国皇城の地下には皇帝以外立入る事ができない神聖な 宮殿 が築かれている。
契約の魔方陣はそこで厳重に、極めて 厳 重 に 護られているのだ。
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そんな場所にアッサリ侵入できるだなどと、夢にも思わぬ事だった。
張り巡らされた守護結界は、いとも容易くぶち破られた。
警護の兵士や魔道士は、睡眠魔法にコロッと掛かり全員見事に眠らされた。
行く手を阻む障害を魔法で容易く排除しながら、皇城地下の宮殿内を赤毛の魔女が突き進む。
キラと一緒に必死の思いで付いて行く中、メイシャは密かに驚嘆した。
ヤトマ国皇城を護る魔道士兵は選り抜きの高位魔道士ばかり。その精鋭達が幸せそうに、床に転がり大いびき。
あり得ない。目の当たりにして尚、信じがたい光景だった。
( しかも、一度も呪文を唱えてないわ!
結界解除も睡眠魔法も、呪文詠唱なくやってみせるだなんて!
この人、ただの魔女じゃないんだわ! かなり高位の魔女らしいだけど・・・。)
キラも同じ思いのようだ。
彼は皇子らしからぬへりくだった口調で、魔女の背中に問いかけた。
「・・・あの、貴女、いったい何者・・・???」
「いいから黙って付いておいで!」
ピシャリと一言でキラを黙らせ、赤毛の魔女はズンズン進む。
彼女は2人を宮殿の最奥にある、小さな小部屋へと導いた。
契約の魔方陣が眠る小部屋の扉。
ここも強力な封印魔法が幾重にも施されていて、何があっても開かないはずが・・・。
「 さぁ、自分の目でよく見なさい。
この国の『真実』をね!」
赤毛の魔女が扉の取っ手に手を掛ける。
思い切りよく引かれた扉は呆気ないほど簡単に開き、室内にメイシャ達を招き入れた!
「 !!? 」
2人は愕然と立ち尽くした。
所々に設置されてる光魔法の魔石のランプ。その朧な明かりに照らされた大理石造りの荘厳な小部屋。
床いっぱいに描かれている 地の契約の魔法陣 。
その魔法陣が、消 え か か っ て い る 。
輪郭だけを薄ら残して、ほとんど見えなくなっていた。
「これは・・・!?
どういう事だ?!契約の魔方陣はどうなってしまったんだ!?」
血相変えて喚くキラに、赤毛の魔女が冷酷に告げる。
「見ての通り 消えかけてる わ。
こうなって当然じゃないかしら? この国の皇帝、遊んでばっかりで碌に働いてないんだもの。
それじゃ地の精霊に愛想つかされても仕方がないって話だわね。」
「!!? なんて事だ・・・!!?」
キラが膝から崩れ落ちた。
絶望的な真実に打ちのめされた恋人に駆け寄り、メイシャはそっと抱きしめる。
幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた。だから、彼の気持ちがよくわかる。
キラは、ヤトマ国を愛している。
ヤトマの平和と繁栄を願い、どんな時でも自分を律して学問・武術に必死で励み、精進努力を重ねてきた。
そんな彼の健気な姿を一番近くで見てきたメイシャは、心が張り裂けそうだった。
もし、このまま魔法陣が消えてしまえば、ヤトマ国は 滅亡 する。
あまりの事に怯えるメイシャに、赤毛の魔女がさらに醜い真実を告げる。
「ついでだから教えとくけどね。この国の皇帝が大魔女と結婚するなんて、大嘘 よ!
ふん! 笑わせてくれるわね。人の婚活、 国外逃亡 の口実にしようだなんて!」
「大嘘?! 口実?! では、キラ様に帝位を譲ると言うのは!?」
「この事態の責任を弟に押しつける気、満々ね。
帝位を譲れば契約違反の『呪い』から逃れられると思ってんでしょ。呆れて言葉も出てこないわ!」
「そんな・・・!」
その時だった。
怯え震えるメイシャの手を、恋人の手が握りしめたのは。
キラが、項垂れていた顔を静かに上げる。
誇り高い皇子の目には、闘志の炎が宿っていた。
---!!!---(`へ´)---!!?---
バァン!
広間の扉がもの凄い音を立てて内開いた。
驚き目を剥く家臣達をよそに、キラが上座に座る皇帝を真正面から睨みつける。
(なんて事なの・・・!?)
共に広間に乗込んだメイシャは嫌悪を覚えて顔をしかめた。
ここはあの残酷な「勅命」を告げた大広間ではなく、宴会をするための小広間。
国が死に瀕している。
その事態を招いた張本人がご馳走を食べ酒を煽り、お気に入りの家臣を集めて馬鹿げた享楽に浸っているのだ。
「このヤトマが 亡国の危機 にある今、いったい何をしているのですか!?」
怒りに震えるキラの声が、広間の隅々にまで響き渡る。
「兄上、私は先程『地の契約の魔法陣』を、この目でしかと確認しました!
魔法陣は直に消える。
あんな状態になるまで、なぜ放置していたのです?!!」
広間に衝撃が走った。家臣達は一斉にどよめき取り乱す。
「な・・・なにを言っているのだ、弟よ。」
引きつった笑みを浮かべる皇帝ザウロの手から杯が落ち、酒が辺りに飛び散った。
「お前が地下宮殿に入れるワケないではないか。あそこは厳重に結界を・・・。」
「あら。それならアタシが消しといたわよ?」
キラの後ろでメイシャと佇む 赤毛の魔女 が超然と笑う。
「疑うなら今すぐその目で見てくるといいわ。もう誰でも奥まで入っていけるから。」
数名の家臣が慌てて走り出ていった。
本当に確認しに行くようだ。直に彼らの口からこの国の恐ろしい「真実」が語られるだろう。
「兄上、玉座から降りていただきます!」
みっともなく取り乱す皇帝に向かってキラが咆えた!
「今日より私が皇帝の座に就き、正しく民を護り導く!
間に合うはずだ! まだ魔法陣は完全に消えてしまったわけじゃない!
私は再び地の精霊の信頼を得て、この国を滅亡から救ってみせる!!!
貴方は国を出てどこへなりと行くがいい! だたし帰還は許さない!
貴方が国を見捨てるんじゃない、この国が貴方を見捨てるんだ!!!」
皇帝・ザウロの狡猾な顔が醜く歪にゆがんでいった。
彼はやおら立ち上がると、右手をキラへと振りかざし、素早く呪文を詠唱した!
「小賢しい事ぬかしおるな!慮外者!!!」
強く眩しく邪悪な光が皇帝の手から迸る!
( 危ないっ!!! )
メイシャは咄嗟に、キラの前へと躍り出た。
相手は腐っても皇帝である。
一国を護る力を有する者が放った攻撃魔法。その威力は強大で、まだ魔道士見習いの自分の魔力が太刀打ちできるとは思えない。
(それでも、この身が少しでも盾になれば!)
祈るような思いで両手をかざし、持ちうる魔力の全てを一気に解放しようと試みた。
しかし。
突然、背後から強く抱きすくめられ床の上に引き倒された。
キラが覆い被ったのだ。絶望的な攻撃魔法から、メイシャの身を守るために!
( なんて事を!!? )
しかし、沸き上がってくる喜びはどうしても抑えられなかった。
ほんの僅かな、その刹那。
メイシャはキラの温もりを感じ、幸せを噛みしめ目を閉じた。
「慮外者はどっちかしら?! とっとと玉座から降りなさい!!!」
稲妻のような一喝とともに、「キィン!」と甲高い音がした!
強烈な光が眩しく弾け、邪悪な魔法は打ち消された。その衝撃は凄まじく、広間全体が大きく揺れた。
やがて、互いを庇って抱き合う2人に不思議な静寂が訪れた。
安らぎすら覚える静けさの中、赤毛の魔女の声がする。
「帰るわ。後は自分達でやんなさい。」
遠く微かに聞こえる声は2人の心に染みいった。
「真実はね、その目でよく見て確かめなけりゃ、その手に掴めないものなのよ。
さぁ、しっかりしなさい! 両目を開いてよく見るの。
今のアンタ達に必要なものが、ちゃーんと見えてくるはずよ!
あぁ、地の精霊には私からよろしく言っとくわ。
案外話がわかる子だったわよ? 魔法陣は元に戻してくれるんですって、これからアンタ達が頑張るなら、ね。
アンタの兄さんは当分私が預かるわ。あの腐った根性、叩き直しといてあげる。
そうね、カボチャ農家にでも放り込んでやろうかしら?
身体一つで必死に働きゃ、少しはマシになるでしょうよ♪♪♪」
「・・・カボチャ???」
メイシャが恐る恐る目を開けると、そこにもう赤毛の魔女はいなかった。
その代わり。
周りにはたくさんの 人 がいた。
襲われる2人を庇おうとその身を投げ出した家臣達。未来の皇帝に忠義を尽す覚悟を決めた有志達が、目の前で積み重なっている。
メイシャの父親・ウヅキ将軍もちゃんといた。いの一番に飛び出したらしく、忠臣達の山の下で押しつぶされてもがいていたが。
「・・・お父様!」
父の元へと駆け寄るメイシャは 誇らしげな声を耳にした。
「キラ皇帝陛下、万歳!!!」
新たな歴史を刻み始めたヤトマ国の 鬨の声 。
新皇帝の名を連呼する家臣達の中で、ついさっきまで皇帝だった男の姿が消えてる事を気にする者などいなかった。
---♪---♪---♪---♪---
ここから先は、余談になる。
数年後、かつて以上に豊かになったヤトマ国の若い皇帝夫妻が 大魔女の国 を訪れた。
「・・・ あ"ーーーーーっっっ !!!?」
城の大広間に通された2人は、玉座に座ってニヤニヤ笑う大魔女を見るなり絶叫した!
異国の女王に無礼千万!しかし罪には問われなかった。
むしろその謁見の場にいた人達には、深く同情されたという。
(どーせ、ウチの大魔女様が、この2人になんかちょっかい出したんだろう・・・。)
おおむね、正解だった。
---☆---☆---☆---☆---
「お前、いったい何してるんだい???」
大魔女の母親にして、先の大魔女だった婦人がため息交じりに苦言を漏らす。
「なにが婚活だよ、人様の難儀に首突っ込んで片っ端から世話焼いて。
コレじゃいつまで経っても結婚なんか出来るわけないじゃないか、まったくもう!」
「・・・。」
大魔女はバツが悪そうに顔をしかめた。
この母親とはいろいろあったが、今はいい関係を築いている。
こうして一緒に居間でお茶を飲み、文句を言い合うくらいには。
「本当にお前ときたら!ブツブツブツ・・・。」
「うるさいわね、もー!」
紅茶のカップを皿に置き、大魔女はテーブルの上に山と積まれた縁談書類から一枚抜いて手に取った。
「いいでしょ、そんなに焦らなくたって!
ほら、縁談だってまだこんなに来てるんだ、し・・・。!!? 」
書類に目を落とすなり、顔が強ばり固まった。
「ど、どうしたんだい、お前?」
異変に気付いた母親が、眉を潜めて聞いてきた。
不安そうな母親の声に、大魔女の口元に微笑が浮かぶ。
「よかったわね、お母様。私の結婚相手が決まったわ。」
「え?!」
狼狽え始めた母親に、手にした縁談書類を見せる。
そこには、とても恐ろしい名前が書き込まれていた。
「北の大国の 魔王 様。
今、この世で一番厄介な男よ!」
北の大国の王はまだ若い。
自ら「魔王」と名乗るだけあって内に秘めた魔力は絶大。その魔力にものを言わせて父王から玉座を奪い取った。
その上世界を手中に納めんと、虎視眈々と機会を狙う。
非情に強欲で危険極まる、野心溢れる男だった。