大魔女様は婚活中
2.子猫目線の王子様
グストーシュ王国には深い森に縁取られた広大な湖がある。
この美しい湖は国に多くの恵みをもたらす。今日も湖面には大小様々な漁船が浮かび、多くの漁師達が投網を投げ込む姿が見える。
しかしもうじき冬が来る。冷たい風が湖を凍らせ、雪が湖面を白く染める。
日々の糧を得られなくなる民は、遠い春まで貧しい暮らしを強いられる。
それを何とか改善したい。
湖を見下ろす小高い丘に築かれた王城・自室の窓から湖を眺める第二王子・ラチェットは、苛立つ思いを持て余していた。
「かの国の大魔女からはまだ返事が来ない。
こちらとしては一刻も早く良い返答を聞きたいのだが・・・。」
「・・・そうね。少し遅いわね。」
背後から聞こえる深みのある女性の声に、まだ若い王子は振り向こうともしなかった。
そんな態度は本来ならば、淑女に対して不敬な行為。しかし気心知れた「友」であるなら、ある程度は許される。
エルクレイ男爵令嬢・ルミア。
彼女とは幼なじみ。もう13年近くも親交がある、何でも話せる「親友」だった。
「この縁組みは非常に有益だ。
かの国の大魔女と婚姻関係を結べば、我が国は大きく発展できる。」
「そう・・・そうね。でも、ね?ラチェット。」
寝椅子にゆったり腰掛けるルミアが、躊躇いがちに口を挟む。
「この国の者はみんな、貴方に期待しているのよ?
聡明で賢く先見の目が有り、謹厳実直で人望も厚い。大臣達もよくそう言ってくれてるじゃない。
私だってそう思うわ。貴方ならこの国始まって以来の 名君 にきっとなれる。
グストーシュは確かに貧しい国だけど、大魔女様を頼らなくたって貴方だったら、きっと必ず・・・。」
「だから俺を国王に、かい? バカな事を!」
ラチェットは煩わしげに片手を振った。
「嫡子たる兄を差し置いて、弟の俺が玉座に就けるわけがない。
序列を乱せば秩序が乱れる。格下の者が身分もわきまえず上に立とうとするから国の内紛が起るんだ。国のためを思うのだったらそんな事はするべきじゃない。
俺は王太子たる兄を支え、国益ために大魔女との婚姻に臨む。
マーダル兄上が頼りなく思われるのは、恋愛沙汰の醜聞がある所為だろう。今は 子爵家の娘 に熱を上げておいでだそうだが、気にするほどの事じゃない。
兄上も次代の国王としての自覚は当然お有りのはずだ。そのうちきっと、皆が認める素晴らしい女性を 王妃 に迎えてくださるだろう。」
「・・・。」
ゆったりと腰掛けていた寝椅子から、ルミアが静かに立ち上がる。
彼女は困ったように微笑しながら、テーブルの隅に置かれた手袋をそっと取りあげた。
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(やれやれ、とんだカタブツだこと。)
真っ赤なビロードの台座に置かれた、虹色に光る水晶玉。
自室のソファに深々座り、それを眺める大魔女は呆れて吐息を一つ付いた。
(ちっとも周りが見えてないようね。
国を思う気持ちご立派だけど、コイツの頭は岩塩ででも出来てンのかしら?
こんな男は願い下げ!・・・でも、このまま捨て置くのも面白くないわね。)
大魔女の水晶玉には、優雅な礼を一つ残して部屋から退出するルミナが映る。
窓辺に立つラチェットの背中に微笑む瞳がどこか儚く、哀しげだった。
大魔女は首に掛けている首飾りに手を当てた。
その美しい首飾りは大魔女の証。色とりどりに散りばめられた宝石の一つを、指でそっと優しく撫でる。
(3番目と7番目の妹がこうだったわ。
恋や結婚をカチカチの頭で考えるから、近くの幸せに気付けない。
目線を変えるのも時には大事。少しは勉強しなさいな、岩塩頭の王子様!)
キィン!
指先で弾かれた宝石が、高く美しい音を立てた。
水晶玉のなかで、ラチェットの姿がぼやけて消えた。
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「え? えぇ?! えええぇぇ!!?」
突然の目眩と共に起った異変。
驚愕したラチェットは思わず叫んだ、つもりだった。
しかし、口から飛び出してきた絶叫は。
「にゃ? にゃにゃ?! ふにゃああぁ!!?」
それはそれは愛らしい、可愛い声が響き渡った!
「あの、ラチェット、ごめんなさい?私、手袋忘れちゃって。
部屋を出るとき確かに持ったはずなんだけど・・・って、え???」
遠慮がちなノックの後で扉が開き、ルミアが部屋に戻って来た。
彼女の目が丸くなる。
背を向け窓辺に佇んでいたラチェット王子の姿が、ない。
その代わり。
窓辺いたのは 小さな子猫 。
フワフワした白い毛並みの子猫が一匹、呆然と蹲っていた。
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子猫=ラチェットはルミアに部屋から連れ出された。
「見つけたのが私でよかったわ。ダメよ?王宮に入り込んじゃ。
特にラチェットの侍女達は厳しいの。見つかったら酷い目に遭わされちゃう。」
(厳しい?王宮の侍女は皆、柔和なはずだが・・・?)
ネコのラチェットは小さな首を傾げる。
侍女達は良家の子女だ。高貴な家柄の彼女達が小動物に乱暴するなど、想像も出来ない事だった。
「・・・まぁっ!
何をしていらっしゃるの、貴女方!」
回廊を進むルミアが急に立ち止まった。
声が険しい。驚き見ると、ラチェットの侍女達がよってたかって一人の娘を取り囲んでいた。
娘は回廊の床に頽れたように座り込み、唇を引き結んで項垂れている。
突き飛ばされたようだ。しかも侍女の1人が娘のスカートを意地悪げに踏みつけている!
「まぁ、これは某・男爵令嬢様。ご機嫌麗しゅう!」
「いい気でいらっしゃいます事ね。第二王子様に取り入って!」
「王太子様に媚びを売るこの方とご同類です事!浅ましい!」
「参りましょ、皆様。気分が悪くなりますわ!」
ツンッと顔を背けて去って行く侍女達を尻目に、ルミアが娘に駆寄った。
「怪我はありませんか?ホーネット嬢。なんて酷い事を!」
「・・・大丈夫ですわ。お目汚し申し訳ありません・・・。」
娘が力無く微笑んだ。
(ベルノウィース子爵令嬢? 兄上が執着する娘じゃないか!)
ルミアの腕に抱かれた子猫に気付く余裕はないようだ。ホーネット嬢は泣き出した。
「私、もうダメですわ・・・。」
「しっかりなさって!そんな事ではこの先、マーダル様をお支えする事なんてできませんよ?」
「いいえ、無理です。 私には 後ろ盾 がないのですから!」
ホーネット嬢が力無く、首を小さく横に振る。
「あの方はいずれ玉座に就んですもの、身分の低い私ではお側に寄る事も出来なくなります。
無理なんです、ルミア様。私なんかでは、無理なんです・・・!!!」
「・・・。」
ルミアは沈黙した。
むせび泣くホーネット嬢の背中を、ただ優しく撫で続けた。
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(なんて事だ!侍女達が影であんな卑劣なマネをしているなんて!
立場の弱い娘を集団でいたぶるなど! 恥ずべき行為だ、許しがたい!!!)
ラチェットはイライラ尻尾を振り回した。
しかしハッと何かに気が付き、優しく自分を撫でてくれているルミアを見上げてジッと見つめる。
(君もなのか、ルミア?
君もあんな卑怯な者達に、酷い事をされているのか・・・?)
ルミアは男爵令嬢。本来ならば王家の者とはほとんど目通り出来ない下級貴族のはずだった。
もしも、影で嫌がらせなどされていたのなら・・・。
「そう。ホーネット嬢もお気の毒ね。」
上品な貴婦人がふぅ、と小さくため息ついた。ルミアの母である。
エルクレイ男爵の屋敷に連れてこられたラチェットは、ルミアの家族と一緒に居間でお茶をいただいているところだった。
と、いっても、ラチェットは子猫。
ソファに座るルミアの膝で、小さな器に入れられたミルクをチビチビ舐めているだけなのだが。
「えぇ。私、見ていられなくて。お二人はあんなに愛し合っていらっしゃるのに。」
「仕方ない事だが、やりきれないな。
マーダル様が国王に即位された時、名実共にお支えできる伴侶でないと皆が納得しないだろう。」
「後ろ盾が、必要なのね・・・。」
重々しい口調で語る父の言葉に、ルミアが項垂れ目を伏せる。
テーブルの上で湯気を燻らす紅茶のカップを眺める彼女は、暗く悲しげな面持ちだった。
ふと、となりのソファに座る母が、手が伸ばしてルミアに触れた。
「ルミア。ホーネット嬢も気がかりだけど、私は貴女の事が心配なのよ?
貴女だって、小さい頃からずっとラチェット様を・・・。」
「・・・。」
押し黙ってしまったルミアに、父親が静かに語りかける。
「・・・そろそろ 結婚 を考えないか? ルミア。」
ルミアがハッと顔を上げる。
青ざめ戦く娘を見つめる父の眼差しは真剣だった。
「酷な話だが、ラチェット王子の縁談が調えば今まで通りとはとてもいかない。
お相手はかの国を治める偉大なる大魔女様だ。王子はかの国の王配となられ、お会いする事すら叶わなくなってしまうだろう。
元より、私の力ではお前を王子と娶せる事など到底出来ないのだ。
この際だ。お前に幾つか来ている 縁談 を、どれか一つでも受けてみないか?
ただの『友人』としてではなく、ちゃんとお前を淑女として見てくれる。そんな紳士との出会いを考えてみては・・・。」
「いいえ、お父様!」
父の言葉を遮るように、ルミアが声を張り上げる。
膝の上の子猫を抱き上げ、彼女はソファから立ち上がった!
「私はあの方と一緒に居たいのです。せめて、お目にかかれる間だけでも!
もし、この先もあの方が私を必要として下さるのなら、ただの『友人』でも構いませんわ!!!」
( ルミア ・・・!)
彼女の名を呼んだ、つもりだった。
しかし口から飛び出したのは、「ミャー」という、とても可愛い鳴き声だけ。
もどかしくて腹立たしい。ラチェットは猫の自分に失望した。
「まぁ、ゴメンね、ビックリしたわね。」
腕の中の子猫を見下ろし、ルミアは両親に背を向ける。
「この子のベッドを作ってあげなきゃ。失礼しますわ、お父様、お母様!」
居間から逃げ出すルミアの目には微かに涙がにじんでいた。
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ルミアが造ってくれた子猫のベッドはとても気持ちのいいものだった。
ふかふかクッションと毛布に埋もれ、ラチェットはしょんぼり項垂れていた。
夜も更け、家人が眠りに就いたエルクレイの屋敷はとても静かで、時が止ったかのようだった。
そんな中、聞こえてくるのは密かな嗚咽。
自室の窓辺で椅子に腰を掛け、ルミアが1人、泣いている。
声を殺して涙を流す彼女は酷く儚く見えた。
「あら、ごめんなさいね。心配してくれてるの?」
ようやく顔を上げたルミアが泣きはらした目で微笑んだ。
「私ったらバカね。泣いたって仕方ないのに。
わかっていた事だわ。あの人の隣にずっと居られるのは、ただの『友人』の私じゃないって。
ずっと自分に言い聞かせてきたはずなのに、時々我慢できなくなるの。
ダメね、もっと強くならなきゃ。
でないと、『友人』としてでさえもお側に居られなくなっちゃうわね・・・。」
(・・・そんな事言わないでくれ、ルミア。)
子猫のベットにそっと近づき、跪く彼女が差し出してきた手に、ラチェットは顔を押しつけた。
柔らかくて、温かい。とてもたおやかな繊手だった。
(俺は何も見えていなかったんだな。
王宮内の事も、兄上が愛した女性の事も、何もかも知ってるはずの、君の事も。
君がこんなに苦しんでいるなんて、少しも思いはしなかった。
すまなかった。本当に、ごめん・・・。)
「ニャー、ニャニャニャ、ミャー。」
口から出てくる子猫の声が、愛らしい分腹立たしい。ラチェットは尻尾を振り回した。
「落ち着かないのね、どうしたの?
・・・そっか、お母さんが恋しいのね?」
勘違いしたルミアが愛おしそうに、子猫の頭を優しくを撫でる。
「大丈夫よ。
心配しないで、これからは私がずっと一緒にいてあげる。」
それは、突然の事だった。
ルミアがスッと立ち上がり、ナイトガウンをハラリと脱いだのだ!
(!?!?!?)
ラチェットはキトン・ブルーの目を見張り、短い尻尾をピン!と立てて身体中の毛を逆立たせた。
窓に引かれたカーテンの隙間から差し込む月の光。
それに照らされたルミアの姿は、息を飲むほど 綺麗 だった。
洗い立ての豊かな髪が黒銀に輝き、瑞々しい滑らかな素肌は真っ白な磁器を思わせる。
ゆったりとした薄絹の夜着をとおして垣間見える、優美な曲線が艶めかしい。
息づく胸元、折れそうな細腰、スラリと伸びた両の脚。これが幼い頃の夏の日に、素っ裸で湖を泳いで一緒に遊んだあの 幼馴染み だとは思えない。
こんなに美しい 女性 は今まで一度も見た事が無い。
羞恥も紳士の礼儀も忘れ、ラチェットはただ呆然と見つめていた。
次の瞬間耳にする 誘いの言葉 を聞くまでは。
「さ、おいで。一 緒 に 寝 ま し ょ ♡」
(・・・ は ???)
すぐには意味がわからなかった。
わかってからが大変だった。ラチェットは激しく混乱し、我を忘れて狼狽えた!
(ね、寝る?! 寝るって 俺 と!!?
ダメだろそれは! いくら幼なじみでも、妙齢の男女が同衾するなど・・・!
・・・イヤ待てよ?
今、俺はネコだ。もしかしたら、いいのか?・・・って、違う!
断じて違うぞ、落ち着け、俺っっっ!!!)
瞳孔を細めて身を強ばらせ、尻尾をブンブン振り回す。
そんな子猫に一層優しく、ルミアがふんわり微笑んだ。
「まぁ、こんなに怯えて。初めてこのお家に来た夜だものね、無理もないわ。
いらっしゃいな、抱 っ こ し て あ げ る ♡」
(ま、待て!それはマズい!マズいぞルミア!
ちょ、待っ、 あ" あ ぁ ぁ ぁ !!?)
舞い降りてくるルミアの繊手に、ラチェットは思わず絶叫した!
--=^_^=--=^_^=--=^_^=--♡♡♡
「・・・あの、ラチェット、ごめんなさい? 私、手袋忘れちゃって。
部屋を出るとき確かに持ったはずなんだけど・・・って、ひっ?!」
「 え ???」
我に返ったラチェットは、振り向きルミアの姿を見た。
「ど、どうしたの?! 何があったのラチェット!」
「えっ・・・あ!?」
血相変えて詰め寄るルミアに狼狽え周りを見回した。
王宮にある自分の部屋。そこの窓辺にボーッと立ってる自分に気付いて驚かされる。
慌てて壁の大鏡を見て、思わず吐息が漏れた。
(子猫じゃない?! よかった、人間に戻ってる!)
ついでに、心配そうに自分を見つめるルミアの姿にも安堵した。
ちゃんとドレスを着用している。
ほんのちょっぴり、残念だが。
「貴方、汗だくよ?!目も血走ってるし顔色も悪いわ!
一体何があったというの?! 私が部屋を出て、忘れ物に気付いて帰って来るまでの短い間に!?」
「・・・。」
とても言えない。言えるはずがない。
言ったとしても信じないだろう。まさか子猫になってたなんて!
(・・・いや、一つだけ言える事がある。)
ラチェットは大きく息を吸い、自分の心を落ち着かせた。
「ルミア、本当にすまなかった。」
「・・・は?」
ルミアの目が丸くなる。
突然の謝罪に呆気にとられ立ち尽くす彼女を、ラチェットは深い感動の念を抱いて見つめた。
( あぁ、綺麗だな・・・。)
優しい気持ちがにじみ出るルミアの可憐で清らかな美貌。それに今まで気付かなかった愚鈍な己を激しく悔いた。
彼女はいつの間にか、美しい淑女に成長していたのだ。
しかも、心優しくただひたむきに、無償の愛を注いでくれた。自分の気持ちを押し隠したまま、何でも話せる「親友」として。
何も知らずに傷つけた。それが心の枷となり、言い出す勇気を鈍らせる。
しかし。
言わずにはいられない。
胸に沸き上がる思いを噛みしめ、ラチェットはルミアの手を取った。
「今まで何も気付けなかった俺を、どうか許して欲しい。
辛い思いをさせてすまなかった。君のような素晴らしい淑女を悲しませてしまった俺は、どうしようも無い愚か者だ。
でも、もし・・・それでも俺を想ってくれるなら、これからも一緒にいてくれないか?
友人 ではなく、妻 として。
愛してる。いつまでも側にいてくれ、ルミア・・・!」
ルミアの瞳が大きく揺れた。
その瞳に様々な感情が忙しく閃く。衝撃、驚愕、動揺と混乱。美しい淑女は酷く狼狽え、途方に暮れて戦慄いた。
泣き出す彼女を優しく抱きしめ、ラチェットは静かに目を閉じる。
窓の外ではチラチラと真っ白な雪が舞い始めていた。
(大魔女様への求婚を取り下げないといけないな。
早急に父上や兄上とも話をしなければ。もちろん、ベルノウィース子爵家とも。)
ルミアの髪を撫でながら、これからの事に思いを馳せる。
乗り越えなければならない「現実」は、暗く重く、強大だった。
( この国の玉座には俺が座ろう。
地位や権力が無ければ愛する人と一緒になれない、身分で人を軽んじ蔑む。そんなこの国のあり方を根底から変えていく。
先ずはそこからだ!人の心に友愛がなければ、グストーシュ国に未来は、無い!
廃嫡になる兄上はホーネット嬢と一緒になればいい。
ルミアももう悲しませたりしない。これからは俺が・・・一生護る!)
躊躇いながらもオズオズと、ルミアの両手が背中に周る。
遠慮がちな抱擁に、ラチェットは思わず微笑を漏らす。
グストーシュの国に、冬が来る。
冷たい風が湖を凍らせ、雪が湖面を白く染める。
しかし。
この淑女となら、歩いて行ける。
近い将来、必ずきっと、厳しい寒さに凍える季節を笑顔で過ごせる時が来る。
未来の「王」は確信を抱き、腕に抱いた温もりを一層大事に慈しんだ。
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自室のソファでくつろぐ大魔女は、台座で輝く水晶玉を眺め、すぃ、と右手を軽く振った。
水晶玉の色が変り、映し出されていた画像がどこかの窓辺で抱き合う恋人達から 寡黙な大臣 の顔になる。
「グストーシュ王国に魔法支援を申し出てちょうだい!」
開口一番、大魔女は言った。
「早急に腕のいい魔道士を何人か送り込んで!
水産系、農耕系の魔法に手練れてて、寒さに強い者をお願い。ったく、冬が来たくらいで国民が飢えるなんて、魔法不足にもほどがあるわ!
あぁ後ね、城の女官の中から猛者を選んで一緒に放り込んどいて。
・・・えぇ、猛者よ!エゲツないほどの強者がいいわ。
あの国はね、近々若い王妃が起つの。その前に王宮でデカイ顔する侍女どもの性根、たたき直しとかなきゃね!
そうそう、『後ろ盾』とやらが必要だったわね。コレだからお貴族様がいる国は!
エルクレイ男爵とか言ったかしら? 支援の窓口にはそこン家指名してちょうだい!
あの娘の後ろ盾は、この私。
魔法大国の大魔女が後ろ盾になるのよ! 文句言うヤツは許さないって、魔法支援の書状にキッチリそう書いといて!!!」
水晶玉の寡黙な大臣が黙って静かに頭を下げる。
大魔女は再び右手を振って大臣の姿をプツリと消した。
「さて、お次はっと♪」
水晶玉の色が変り、次なる求婚者の顔が映し出された。