第7章 激闘!バケモノ VS 化け物
3.最悪の時を刻む時計
カルメンはすぐさま銃を構えた!
A・Jも即座に銃口を向け、ビオラも電磁ムチを振り上げる。
A棟だった瓦礫の中には『どっかんクッション1号爆弾』のお陰で命拾いした者が他にもいる。まだ拘束されたままの傭兵達や、逃げ遅れたリーベンゾル武装兵達。その武装兵の1人がアサシン・ナイフを握り締め、瓦礫の中から飛び出してきたのだ!
そして、一番近くに佇んでいたのが悲鳴をあげた シンディ だった!
「いやああぁーーーっ!!!」
鋭いナイフの切先が、かよわい少女に襲いかかる!
・・・はずだったに、違いない。
少なくとも、襲撃して来た武装兵は。
バキッッッ!!!
「おぉっ、見事な右ストレート!」
マルギーが賞賛の声を上げた。
カルメン達も度肝を抜いた。それぞれの武器を構えたままで両目を剥いて硬直する。
鋭く、強烈な一撃だった。
凶刃かわしたシンディが突き上げるように繰り出す拳は、襲撃者の下顎をまともに強打!
その威力は襲撃者の両足が一時地面から離れるほど。彼は大きく仰け反ると、元いた瓦礫に沈んでいった。
「な・・・なに?この感じ?!」
自分の拳をマジマジ見つめ、シンディが凶暴な目でニンマリ笑う!
「すっっっごく気持ちいい! ヤバイ、私、人殴るの好きかも!!?」
「うわ、すげぇ事言った!」
「ヤバイどころかエゲツない!!?」
戦くフェイ・コンポンの目の前で、ビシッと正拳突きをやってみせる。
拳と同時に前に踏み出す足が何かを蹴飛ばした。
「 ? あれ???」
大人の拳大ほどのカプセルだった。蹴られたカプセルは床を転がり、フェイ・コンポンの足下に行く。
「 さっきの『何とか爆弾1号』、1個不発だったみたい。」
「 違うよ。さっきパンチ食らって吹っ飛んだヤツが落っことしたんだよ。
僕 見てたもん。そいつのヒップバッグから落ちるトコ。」
「へー。じゃコレ、何だろな???」
コンポンがヒョイと拾い上げた。片手で玩ぶには丁度いい。何も知らないコンポンは、謎のカプセルをポンポン投げて雑に扱い始めていた。
それを目にしたロディが目を剥き顔色を変えた。
武器開発も手がける彼は その カプセル が何なのか一目見ただけでわかったのだ。
青ざめ震える彼の他に、もう1人わかる者がいた。
スレヴィである。
特殊な言葉遣いのオーサカ民は、なぜか英語で 絶叫 した!
「オーマイガーーーっっっ!!!
KH時限弾 やないか、それ!!!
アカン、絶対落とすンやないでーーーっっっ!!!」
時限式KH線弾。
1個でエベルナ統括司令基地が吹っ飛ぶ、正真正銘の 爆 弾 である。
「ひぃいいぃぃぃ!!?」
全員の口から一斉に悲鳴が上がった。
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シャーロットが素早く周囲を見回した。瓦礫の中で呻いていた武装兵の1人を引きずり起こす。
さっき倒した敵の指揮官である。
「どういう事だ、知ってることを吐け!」
「・・・。」
指揮官は殴られ腫れ上がった顔を歪めただけで、答えようとはしなかった。
「おい、話が違うじゃないか!?」
カルメン達は振り向いた。
瓦礫に埋もれるどっかんクッションの下から這い出してきた武装兵。恐怖の面持ちで震える彼は、指揮官に詰め寄った。
「なんでそんな物、持ちこんでるんだ?!それは使わないって言ったじゃないか!」
指揮官が歪に笑う。
見る者の背筋を凍らせるような、狂人めいた笑みだった。
「もう遅い。諦めろ!」
「!? なんやて!!?」
その一言にスレヴィが反応した。
コンポンから時限弾をひったくり、目をこらして調べ始める。
スレヴィの顔から血の気が引いた。彼は再び絶叫する!
「動いとる!アカン、タイマー作動しとるでーーー!!!」
「ひぃいいぃぃぃ!!?」
時限弾を持つスレヴィの周りには、誰もいなくなった。
「なにを企んでいる!? 吐け!!!」
シャーロットが指揮官の首を締め上げる。
詰問は指揮官の不快な笑みをさらに凶悪にしただけだった。
ごすっっっ!!!
これ以上は時間の無駄。そう判断された指揮官は瓦礫の中へたたき込こまれ、全身強打で昏倒した。
自白拒否による自死を防いだのだ。
いささか乱暴なやり方だった。
一方、指揮官に詰め寄った武装兵は、ガックリその場に跪いた。
怯え方が尋常ではない。彼はガタガタ震えながら、必死の形相で哀願した。
「お、俺が教える!何でも話すから助けてくれ!
俺ぁただの雇われモンなんだ! テロ なんか起こすつもりはこれっぽっちもないんだよ!」
A・Jが武装兵に銃口を向け問いただす。
「テロだと? どういう事だ!」
「俺達はターク様の 妹 だってぇ娘を 拉致 するためにここへ来たんだ!」
武装兵はほとんど怒鳴るようにして、事の次第を話し出す。
「娘の引き渡し交渉が決裂した時、武力行使の強行手段に出るってぇのが今回の任務だったんだ。
だが 外惑星エリアを出る時になって、急に片目の男から エベルナ爆破 の話を持ちかけられた!ターク様が妹の事で交渉している隙に、複数の時限式KH線弾を仕掛けるって・・・!
もちろん、俺達は反対したさ! やめるよう説得もした!」
「サムソン・・・隻眼の男はやめなかったんだな?」
シャーロットがの呟きに、武装兵は頷いた。
「そのようだ。俺達は所詮雇われ傭兵だが、あの片目の男が直接指揮する部隊のヤツらはイカれてる! 今、アンタがぶっ倒したその指揮官のように、死んでも地球連邦側の連中を ぶ っ 殺 し て や る ってヤツばっかりなんだ!
俺ぁ地球連邦なんかに恨みはねぇ!食うのに困って傭兵やってるだけなんだよ、助けてくれ 爆発 しちまう! その KH時限弾 が動いているなら 他の場所 にももう仕込んだのに違いねぇ!!!」
通信機からエメルヒががなり立てる。
『何だとぉ!おい どこだ、どこに仕込んだ!!?』
「予定では 宇宙港ゲート内の エネルギー管理設備 と ゲートターミナル だ!
念のため この基地内と地下通路にも取付けるって言っていた!」
「うわ、基地内に付けるヤツがこいつかいな!? ちょ、誰か!パスやパス!!!」
スレヴィがカプセルを持て余し、オロオロと周囲を見回した。
しかし彼の周りには誰も居ない。全員受け取り拒否である。
シャーロットが近くに居たコンポンの腕を掴み、腕時計型の通信機に口を寄せた。
「地下通路のセキュリティ・パスを教えて下さい、私が宇宙ゲートへ行きます!」
『だーもー! パスがバレたらセキュリティシステム再構築だ!あのシステム、高かったんだぞクソッタレ!』
通信機の向こうでエメルヒが喚く。
『おまけに統括司令室の修繕とA棟立て直し、金がかさむなぁおい!
よく聞け、パスワードは 45235811586 、最後に XYZ だ!
何とかリュイ達に連絡取ってこっちへ引き返すように言う! 失敗なんかするんじゃねぇぞ! 時限式の小さぇヤツでもKH弾4発だ。下手すっと小惑星ごと木っ端微塵になっちまう!
そんなりゃエベルナ総人口54万人、 あっという間に 瞬殺 だ!
わかったかコラ、お前らよぃ! マジで頼むぜチクショーめっっっ!!!』
通信が切れた。
モカのキャスケットを床に叩きつけ、地団駄践んでるエメルヒの姿が目に見えるような切り方だった。
そんな上官とは対照的に、シャーロットは冷静だった。
「よし。地下通路を使って宇宙港ゲートへ向かう!
カルメンとビオラは私と来い。途中でリグナムとモカを拾って・・・。」
キィン!
金属 が落ちる音がした。
シャーロットがフェイ・コンポンを両手に抱え、カルメン・ビオラの2人と一緒に真横に飛んで床に伏す!
同時にA・Jがシンディを抱き、スレヴィ、マルギー、ロディと一緒に反対側へダイブした。
ナパーム弾が炸裂し、真っ赤な火柱が立ち上った。
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無数の電磁銃弾が飛来して、A棟の残骸を焼いていく!
瓦礫の陰に伏せるA・Jは飛び起き、周囲の状況を確認した。
新手である。幸い自分達は射程圏から逃れられたが、シャーロット達が捕まった。
燃えさかる炎の合間から「どっかんクッション」を盾に応戦する姿が見える。ナパーム弾の炎のせいで敵方戦力の把握ができないが、今度の修羅場も厳しそうだ!
A・Jは忌々しげに舌打ちした。
「リグナムと関わるといつもこうだ、ろくな目に遭わない!
だが、こうなったら仕方が無い! 立てお前ら! 地下通路 へ行くぞ!」
「行くって、私達が!?」
マルギーが目を丸くした。
「他に誰がいる! 副官達はもう動けないんだ、俺達だけでやるしかない!
・・・お前はどっか行って隠れてろ!足手まといだ!」
そう言って、しがみついて震えるシンディを片手でベリッと引っぺがした。
一瞬ポカンと目を見張ったシンディが、みるみる顔を赤くする。
「なんですってぇ!?アンタ、さっきの私のパンチ 見てなかったの!?
一緒に行くわよ、絶対に! モカさん助けてあげるんだから!!!」
「好きにしろ! どうなっても知らないからな!・・・お前は逃げるな! 一緒に来い!!!」
こっそり逃げ出そうとするスレヴィの襟首を掴んで引き戻す。彼が置いていこうとしたKH時限弾を、強引に押しつけた握らせた。
「いらんがなこんなモン!ワイは行かんで!絶対嫌や!」
「うるさい、時間が無いんだ!行くぞ!」
「それっきゃないッスね・・・。」
「うわぁ、超絶ハードっ!」
「ちょっと!待ちなさいよー!!!」
メイン司令塔へ走り出すA・Jをシンディ達が追いかける。
「イーヤーやーーーーー!!!」
引きずられて行くスレヴィの絶叫が永く尾を引いた。
彼の手の中の時限弾、その表面にはいつの間にやらタイマー表示が現れていた。
最悪の時を刻む時計の表示は、『00:59:03』。
すでに1時間を切っていた。