第7章 激闘!バケモノ VS 化け物
1.A棟の修羅場
銃撃戦が始まった。
カレーの匂いが香ばしいA棟ロビーに銃撃の嵐が吹き荒れる!
ビオラはフェイ・コンポンを胸に抱えて管理人用業務カウンターの裏に転がり込む。後に続いてスレヴィ・マルギーも飛び込んできた。2人は両手で頭を抱え、必死の形相で床に伏せた。
「だー!修羅場や戦争や!そやから逃げよゆうたやんか!!!」
「でもさっきまではちょっと楽しかったよね。」
「何やねんそのお気楽な発言は!あり得へんやろヤバすぎや!!!」
喚くスレヴィを横目に見ながら、ビオラは唇を噛みしめた。
(確かにこれはヤバすぎる!イヤになるわね、絶望的よ!!!)
心の中で舌打ちしつつ、子供2人を抱きしめる。
その時、ハッと気が付いた。
(シンディ!? あの子、どこ?!)
心臓が鋭く悲鳴を上げた。血が凍る思いに息が詰まり、目の前が暗くなる。
しかしその時、誰かが体を丸めるようにしてカウンター裏に飛び込んできた。
A・Jである。胸にシンディを抱きかかえていた。
「シンディ!よかった、ありがとうキミ!」
「・・・。」
ビオラの謝礼は無視された。A・Jは無言でシンディ放し、腰のベルトに手を回す。
敵から奪った2丁の銃を素早く抜くと、カウンター越しに撃ち始めた!
ドドドドドドドドンドンドンドン!!!
射撃狂気味だが、心強い。
放心しているシンディを優しく抱き寄せいたわってやる。特に怪我は無いようだ。ビオラは安堵の吐息をついた。
「シンディ、大丈夫?」
「・・・。」
反応がない。まったく聞こえてないようだ。
「シンディ?」
心配になって顔をのぞき込んでみる。
勝気で強気なシンディが、まるで別人のようになっていた。
ぼんやりしていて、目がうつろ。
しかもまだ産毛が目立つ両頬は、可愛くほんのり朱が差して・・・。
「なぁなぁ、これって、アレだよな?」
「うん。たぶん、助けてもらって ズッキューン♡ ってヤツ。」
「・・・え? は? はぁあ?!」
姉貴分の声は聞こえなくても、日頃悪態付き合う仲間のヒソヒソ声は聞こえたようだ。
フェイ・コンポンに戯言に、呆けていたシンディがいきなり激昂した。
「どーゆー意味よズッキューン♡って! 何言ってんのよ、こんな時にーっっっ!!?」
「黙って伏せて!!!」
ビオラはシンディの頭を押さえ、電磁ムチを閃かせた!
手榴弾が飛んできたのだ。ムチ先で弾いた手榴弾はガラス窓を突き破って屋外へ。きっかり5秒後、爆発音と同時に上がった火柱にゾッとした。
「冗談じゃないわ!あいつら戦争する気なの!?
ちょっと、カルメン!
ナパーム弾が飛んできたわ!ちゃんと防ぎなさいよ、使えないわね野蛮女!!!」
ビオラは声を張り上げ相方(?)を呼んだ。
「お黙り蜂蜜女!!!」
敵方の猛攻に2丁拳銃で応戦しているカルメンは、ヒステリックに怒鳴り返した。
「死にたくなかったら手榴弾の1つや2つ、自分でなんとかしてみせな!」
とはいえ、事態はどんどん悪化している。
休憩用ベンチを横倒しにして即席バリケードを作ったが、絶え間なく打ち込まれる銃弾ですでにボロボロ。敵から奪った銃の残弾はあと僅かだし、替えの弾倉など手元にない。
それでも自分1人ならなんかなるが、隣ではロディが耳を押さえて縮こまっている。迎撃も退却もできない状況に、怯えるロディが泣き言吐いた。
「ヤバイッス!これ、多勢に無勢ッスよ!」
「諦めるな アホ! 寝言はアレ見てからほざけ!」
カルメンはついに弾切れになった銃を投げ捨て、その手で舎弟の襟首ふん捕まえた。
無理矢理立たせてバリケードの端から敵の様子を覗かせる。
「ちょ、何するんッスか危ないッスよ!・・・って、ひぃい!『鉄巨人』っっっ!!?」
ロディが目を剥き悲鳴を上げた。
バリケード向こう側には、恐ろしい光景が広がっていた。
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銃弾の嵐の中を 鉄巨人 が疾走する。
彼女は敵の攻撃を巧みにかわし、あっという間に間合いを詰める。
鬼気迫る形相で敵陣中に突入し、驚異的な強さを見せつけた!
拳一振りで防弾チョッキのボディが凹み、蹴り一発で機関銃がねじ折れる。瞬く間に同胞が倒されていく恐怖に武装兵達は浮き足立つ。
シャーロットの猛攻は、たった1人で敵方戦力を半数にまで削ぎ落すほど凄絶だった!
若い武装兵の腕を掴み、拳を振り上げたシャーロットは、突然そいつを突き飛ばした。
腰に吊したアサシン・ナイフを素早く抜くと、自分を狙った凶刃を振り向き様に受け止める。
ガキィン!
火花を散らして激しくぶつかる刃の音が、銃撃戦に終止符を打った。
一刀を押し返された襲撃者は身を翻し、即座に体勢を整える。
そして、真正面から向き合う形でシャーロットと対峙した。
「サムソン・・・。」
「その名を呼ぶな!」
シャーロットのつぶやきに、隻眼の男が語気を荒げた。
「何故知っている?! どこで知った!?」
「戦場だ。」
「・・・そうか。だが俺はお前など知らん!」
「貴様が覚えてないのも無理はない。」
怒気も露わな隻眼の男に対し、シャーロットは冷静だった。
油断なく相手を見据えながらも、落ち着いた口調で言葉をつなぐ。
「あの時、私は無国籍の傭兵に過ぎなかった。
貴様は 地球連邦政府軍 の 軍人 、しかも指揮官だったはずだ。同じ戦場に 居た としても、貴様の立場から見れば、私などただの 駒 でしかなかっただろう。」
「サムソン」と呼ばれた男の顔つきが変った。
隻眼に殺気漲り、無言でナイフを身構える。
シャーロットもナイフを握り直す。研ぎ澄まされた白刃が光り、相手を鋭く威嚇する。
鬼気迫る2人の気迫に飲まれ、誰1人として動けない。カルメン達も武装兵達も、固唾を飲んで見守った。
ほんの数秒でも長く感じる、危険な静寂。
その緊迫した空気は突如、思いがけない形で破られた!!!
「あ" あ " あ " ぁ ぁ あ " あ " ぁ ぁ ぁ ーーーーー!!!」
野獣の咆哮が轟いた!
聞こえてきたのは上方から。全員、何かに弾かれたようにロビーの天井を振り仰ぐ。
そして、見た。
鉄筋コンクリートの天井に、無数の亀裂が入るのを!!?
「全員撤収!怪我人は見捨てるな!急げ!!!」
サムソンが振り向き部下達に叫ぶ。
それが行動の引き金になった。シャーロットも踵を返し、業務カウンターへ突進する!
「カルメンさん、伏せて!」
ロディがウエストポーチから手榴弾のような物を5,6個まとめて取り出した。
安全ピンを全部引き抜き、辺り一面に投げ散らす。
その物体が炸裂するのと、シャーロットがカウンター裏に飛び込んだのは、ほとんど同時のタイミングだった。
轟音が鳴り響く。
天井が一気に崩れ落ち、A棟建屋は 倒 壊 し た !
ドドォォォーーーーーンンン !!!!
・・・いったい、何が起ったのか?
それを確認できたのは、辛うじて建屋外に脱出できた サムソン と 数名の部下達 だけだった。
バケモノ が居た。
砂塵が煙るA棟残骸。瓦礫と化したその上に。
額から鮮血を滴らせるその バケモノ は、ギラギラ光る異様な目で、必死で何かを捜していた・・・。
「 チッ! こんな時に・・・!」
負傷した若い部下に肩を貸してやりながら、サムソンは忌々しげに舌打ちした。
武装兵達が呆然と見守る中、 バケモノ はひたすら捜し続ける。
モ カ を。
「後宮」の鍵たる焼き印を穿たれた、彼の異腹の「妹」を!
「があ"あ"あ"ぁぁああぁぁあぁーーーーーっっっ!!!」
強化ガラスの割れた破片が 彼の体に降り注ぐ。
リーベンゾル・ターク は天を仰ぎ、狂おしく身悶え 絶叫した!