第7章 激闘!バケモノ VS 化け物

2.ネーミングセンスにもの申す


ロディは瓦礫の隙間から顔覗かせ、辺りの様子を伺った。
砂塵とカレー煙幕が混じり合う視界は徐々にクリアになってきている。建屋が1棟倒壊したというのに誰も集まって来ていない。おそらく他の棟にいる基地の者達も、全員武装兵集団に拘束されているのだろう。
「カルメンさん、怪我はないッスか?」
傍らでうずくまっている姐貴分に声を掛ける。
カルメンが恐る恐る頭を上げた。

「ロディ、お前、これって・・・?」
「名付けて『どっかんクッション1号爆弾』ッス!」

ネーミングセンスに突っ込む余裕はない。
カルメンは起き上がり、覆い被さっている物体を瓦礫と一緒に押しのけた。
コレのお陰で崩れ落ちる鉄筋コンクリートの瓦礫から身を守れたのはいいのだが、はっきり言って気色悪い。大きな白い緩衝材は、ブヨブヨ、モニョモニョしている上にネトッとしていて感触が悪い。
「説明しましょう!」
ドヤ顔のロディが元気に声を張り上げた。
「『どっかんクッション1号爆弾』とは、超高圧縮でカプセルに仕込んだ特製衝撃吸収材を爆発させることで瞬時に、しかも広範囲に広げて爆発や衝突の衝撃を和らげる、夢のよーな衝撃緩衝マットなんッス!
しかも環境に優しい素材でできていて、無味無臭にしてリサイクル可能・・・。」
「いや、ロディ、後にして・・・。」
建屋倒壊のショックから立ち直れない。
カルメンはロディの説明を力無く遮った。

あちこちの瓦礫から下敷きになった人々が這い出してきた。
「どっかんクッション」はいい仕事をしたようで、大きな怪我をした者は見当たらない。
しかし、カルメンが何かに気付いて息を飲む。

「カウンター裏!新人ルーキー
達は!!?」

ロディの顔が青くなる。
「どっかんクッション」の数には限りがあった。新人ルーキー
達が身を隠したカウンター裏には投入できていないのだ!
「シンディ!フェイ、コンポン!!!」
カルメンが慌てて立ち上がる。
瓦礫に埋もれたロビー中央、カウンターがあった場所まで走り出そうとした時だった。

 ゴゴゴゴゴ・・・スガァアァアン!!!!

突然、カウンターがあった辺りの瓦礫の山が吹っ飛んだ!
生還者達から悲鳴が上がる!カルメンとロディも互いに抱き合い、声を嗄らして絶叫した!
砂塵が再び巻き上がる中、ゆっくりと身を起こしたのは、「鉄巨人」。
フェイ・シンディを右肩に担ぎ、スレヴィ・マルギーを左脇に抱え、両手にそれぞれ襟首捕まれぶら下がっているA・J・コンポン。
壮絶極まる仁王立ち。その足下ではビオラが呆然とへたり込んでいる。
「・・・はぁ~い♡」
カルメン達の目線に気付いたビオラが、ぎこちなく笑って手を振った。
全員生還である。特に怪我は無いようだ。約1名の例外を除き、恐怖で硬直しているが。

「スゲーよオバちゃん!♪ マジでスゲー!!!」
「・・・司令副官、だ。」
「そーだった!トーカツシレイフクカンのオバちゃん、かっこいいぞー!!!」
「・・・。」

例外・コンポンの賞賛に、シャーロットの険しい顔がほんの少しだけ和らいだ。

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「今の、一体何だったの?」
「わからない。キメラ獣の雄叫びのようだったが・・・。」

ビオラの疑問に、カルメンが渋面作って首を振る。
改めて辺りを見回してみても、負傷者と瓦礫の山しか見当たらない。咆哮の正体らしきものは何もなく、いつの間にかサムソンと武装兵達も消えていた。
不安げな2人をよそに、ロディ達は互いの無事を喜び合っている。全員、死にかけたショックからもう立ち直りつつあるようだ。

「敵さん、居らんくなってもたがな。何やっちゅーねん。」
「あ~あ、A棟ぐっちゃぐちゃ。よくみんな生きてたね~。」
「俺の『どっかんクッション1号爆弾』のお陰ッスね!!」
「やっぱりロディさんのネーミングセンス、変だ・・・。」
「そんなの、今はどーでもいいでしょ?!え~ん、怖かったよ~!」

「はいはい、もう大丈夫よ♡・・・たぶん。」
半べそかいてるシンディをビオラが優しく慰める。
ビオラのブレスレット型通信機が鳴ったのは、その手でシンディの抱き寄せた時だった。

『 おい!誰か聞こえるか!?』

ビオラの通信機だけではない。
カルメンの、ロディの、新人ルーキー達の通信機から、切羽詰まった男の声がまったく同時に聞こえてきた。
「えぇ!?」
カルメンが思わず自分の通信機型ピアスへ手を当てる。
この通信機はロディが造った特別製で、部隊メンバー間でしか通話できない。声の主は部外者だった。通信してくる事自体あり得ない。
しかもこっちが応答する前にいきなり話しかけてきた。強制開線だ。これができるのは、局長命令を伝達するモカの通信機だけのはずなのに?!

『聞こえたら応答しろ! おい、誰か!!!』

そんな特別な通信機を使い、声の主ががなり立てる。
驚きのあまりカルメンは、 部隊最高司令官 に対する礼儀をきれいに忘れていた。

「まさか・・・、エ メ ル ヒ!?」

カルメンの無礼を気にする余裕もないようだ。通信機の向こうから エメルヒ がたたみ掛けるように聞いてきた。
『おぉカルメン! 無事か!?他の連中は!?』
「ここに居ます。シャーロット副官も。みんな無事です!・・・どうしてこの回線を?」
『モカちゃんの帽子だ。司令室に忘れてったんだ、お陰でこっちも助かった。
冗談じゃねぇぞあの野郎、何もかもメチャクチャにしやがって!PCも電話もぶっ壊されてどことも連絡取れやしねぇ!』
「・・・あの野郎?」
聞き返すカルメンの声に被さるようにしてビオラが通信に割り込んだ。
自分のブレスレット型通信機に向かって怒鳴る勢いで問いかける。
「そんなことよりA棟が倒壊したわ! いったい何が起きたんです!?」
『いや、なんつーか・・・。
俺も今、混乱しちまってんだ。頭がおかしくなりそうだぜ!』
エメルヒの声に動揺が走る。
彼は半ばやけくそ気味に、その信じがたい事実を告げた!

『お前ら、聞いて驚くなよ!
俺の司令室をぶっ壊して、お前らがいるA棟を瓦礫の山にしやがったのはなぁ!
 リーベンゾル・ターク だ!!!』

「・・・何ゆーてんねん、このおっさん。」
ロディが造った通信機は性能がいい。カルメンの側で聞いているスレヴィの呟きも、ちゃんと拾って相手に送る。
「そんなヤツがこの基地に来るわけないやん。
何をふざけてそんな大物の名前、出してきよるねんな?」
『来たんだよ!その大物が!!!』
エメルヒはさらに声を荒げた。

『あの野郎、頭のイカれたバカ娘がラジオでほざいた暴露話を聞いてやがったんだ!
「7日間の粛正」の時、リュイがモカちゃんを助けて連れて帰った事もちゃんと知ってやがったぞ!?
わかるか、えぇおい!? ヤツの狙いはガチで モカちゃん なんだよ!!!
シャーロットよぃ、お前、モカちゃんにリグナム付けて メイン司令塔地下のシェルター にでも隠れてろっつって、通気口の場所教えたろ!?
そこへ向かってたんだろうな、あの2人が逃げてくのをタークの野郎が見つけやがったんだ!
そしたら狂ったように暴れ出して・・・、統括司令室ここ、地上8階だぞ!?
特殊強化ガラスの壁たたき割って、飛び降りて行きやがったんだ!!!』

全員、A棟隣にそびえ立つメイン司令塔を振り仰いだ。
8階部分のガラス壁が無惨に破壊されている。そこから身を乗り出すようにして、見下ろしているエメルヒが見えた。
彼はモカが残して行った キャスケット をしっかり握りしめていた。

『後はご存じの通りってヤツだ!
あの野郎、A棟に着地するなり建屋一棟ぶっ潰しやがった!』
「まさか、そんな・・・。」
『見てたんだよ、ここから! 鉄筋コンクリートの建モン、ハリボテのおもちゃみてぇにボロボロにしやがるのをな!』
「・・・。」

カルメンはゾッとした。とても信じられないが、現実はまさに目の前にある。
瓦礫と化したA棟建屋。コレが人の手で行われたのだとしたら・・・。
( 今は放心している場合じゃない!)
ブルッと首を横に振り、恐怖でマヒする心を奮い立たせた。

「もしそれが本当なら、何故ヤツはモカを知ってるんです?
見かけた途端暴れたと言うのなら、あの子の姿を 知 っ て い た 事になる!」

『そりゃ俺にもわからん、さっぱりだ!』
通信機からの声と同時に、8階上からカルメン達を見下ろすエメルヒが首を横に振った。

『だが、間違いなくヤツは モカちゃん を見て豹変した!
お前の言うとおりだ、モカちゃんの顔を見知っていたとしか思えねぇ!』
「そんな! 統括司令、リーベンゾル・タークは、いったいどこへ?!」
『それもわからん! A棟がぶっ潰れた時砂塵が上がって、何も見えなくやりやがった!
視界が効くようになった頃にゃ、キレイさっぱり消えちまってたんだ! 代わりにお前らの姿が見えモンだから こうしてモカちゃんの通信機から呼び掛けたんだが、どうやらお前も知らねぇらしいな?!
畜生! あの バケモノ 、どこ行きやがった!!!』

エメルヒの回答に血の気が引いた。
今の話が真実ならば、モカが危ない!
彼女と一緒にいるはずの ナム にも危険が迫っている!

「・・・きゃあぁーーーっっっ!!!」

突然 悲鳴が上がった!

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