第6章 扉を開ける「鍵」
6.起死回生には上腕二頭筋
目の前を黒光りするマシンガンの銃口がチラつく。
襲撃者は約20名。厳つい表情の男達が周囲を見回し、少しでも動くと怒鳴られる。
そんな状況の中、マルギーは他の見習い諜報員達と一緒に両手を頭の後ろに回して佇んでいた。
射撃訓練中だったところをいきなり襲撃されたのだ。A棟は瞬く間に制圧され、内部にいた者は全員1階ロビーに集められた。
マルギー達はホールドアップで許されているが、正規諜報員と傭兵達は電磁ロック式手錠を掛けられ後手に拘束されている。
カルメンとビオラもその中にいた。銃や電磁ムチで奮闘したため 傭兵 と見なされたようだった。
「このドジ!アンタがトロいからとっ捕まったんだよ!」
「人の所為にすんじゃないわよ!そっちがマヌケだったんでしょ!? 」
「はぁ?! 銃持った敵にムチでやり合うとか、へっぽこなマネしたからだろーが!」
「はン! ご自慢の二丁拳銃もまるで役に立たなかったじゃない! 無様に制圧されたクセに!」
「言ったね! この蜂蜜女!!!」
「それが何よ! この野蛮女!!!」
拘束されて自由を奪われ、機関銃の銃口を突きつけられて尚、罵り合う。こんな2人は傭兵達よりよっぽど肝が据わっている。
その後ろにはキッと口を引き結んで鎮座している『鉄巨人』。
もちろん手錠で拘束されているのだが、彼女が無言で耐えているのは不甲斐ないこの状況なのか、それとも女2人の喧しさなのか、いささか判断出来かねる。
(これからどうなっちゃうんだろ・・・?)
マルギーは不安になって俯いた。
コン!
何かが頭に当たって落ちた。
「ほぇ?」
見ると小さな キャンディ だった。個包装のミルクキャンディが床にコロンと転がっていた。
( 何これ? どっから飛んできたの?)
周囲を見回した。ロビーの隅に目がとまる。
大きな観葉植物の鉢の陰に、ど派手な市松模様が見えた。
理解しがたいTシャツを着た昨日来の 友人 である。彼は右手の指を揃えて右肩に軽く当てた後、その手をマルギーの方へ差し伸べ、ニンマリ笑って手刀を切った。
( 手話? 『任せたぞ、よろしく!』って、何それ???)
目を丸くするマルギーの様子に 意図が通じたと思ったらしい。
昨日来の友人=ナムが鋭く叫ぶ!
「モカ、行け!!!」
「はい!!!」
キュイン!
パパパッと鋭く銀光が煌めき、銀線の刃が空を切る!
次の瞬間。
マルギー周辺の武装兵達が、あられもない悲鳴を上げた!
「え?」
「あ、あれ!?」
「きゃー!」
コンバットスーツがズタズタに切り裂かれ、全員見事にパンツ一丁! 意外にもカラフルな おパンツ ばかりで、目にも眩しく華々しい。
顕わになったマッチョな肢体に、自称「変質者」の目の色が変る。
マルギーの脳内テンションメーターは、瞬時にMAX値をぶっちぎった!
「い”や”ぁ”ーっ♡! 大胸筋 と 腹直筋 と 上腕二頭筋 ーーーっっっ♡♡♡!!!」
喜色満面で大絶叫!
「えええぇぇーーー!!?」
「変質者」のギラギラする目に舐めるように見回され、パンツ一丁武装兵達は大混乱に陥った!
「はぁ?! 上腕二頭筋??!」
「変質者」の雄叫びが、カルメン達を見張っている武装兵達の意識を反らす。
その隙に新人達が忍び寄り、カルメン達の背後の周って手錠に特殊なシールを貼った。
観葉植物の鉢の陰で、モバイル端末を構えるロディが素早く何かをインプットする。
端末からの信号を受けたシールが微弱な電気を発し、手錠の電磁ロックを解除しカルメン達は自由になった!
「どぉッスか!♪ 俺が開発した 電磁ロック解除シール の威力はっ!♪」
ロディがガバッと立ち上がる!
これ以上無い ドヤ顔 だった。まさに得意絶頂である。
「名付けて『ロックオフぺったん』! コレで解錠しないモンは無いッスよ!!♪」
「・・・ロディさんのネーミングセンス、ナムさんの服並みに変だ・・・。」
自分の役目を終えたフェイが、隅のベンチ裏に隠れてぽつりと小さく呟いた。
「よっしゃ、行くぞ!!!」
ナムは植木鉢から躍り出た。
パンツ一丁武装兵達に襲い掛かり、全員一気に叩き伏せる。
奇襲に気付いた他の武装兵達が、それぞれの銃器を構え直す。銃口が一斉にナムを狙うが、狙撃はA・Jの銃に阻止された。
「グッジョブ、エーちゃん!」
「喧しい!あだ名で呼ぶな!」
「だーかーらー、ニックネームはあだ名じゃないって・・・ぅお!?」
親友(?)と言葉を交した隙に後ろを取られた。
人相の悪い武装兵が、ライフルの銃身で殴り掛かる!
バキッ!!!
真横から華麗に蹴り入った。
中国拳法の蹴りである。武装兵は奥歯を散らし、白目を剥いて吹っ飛んだ!
「レヴィちゃん、かっくいー! ほらやっぱ強いンじゃん!♪」
拳を構えるスレヴィに、ナムは陽気に声を掛ける。
彼の返答は露骨過ぎるほど 世知辛い 上 がめつかった 。
「一蹴り1,000エン、拳なら2,000エンや!」
「えー!!?」
暴利に驚くナムの前で、武装兵が殴り倒され電磁ステッキを奪われた。
「ロックオフぺったん」で自由を回復したらしい。電磁ステッキを手にしたマルギーが勇敢に敵へと切り込んでいく!
電磁ステッキはスタンガンに似ている。相手に刀身を当てた瞬間 手元のスイッチで電流をぶち込み感電させて昏倒させる。
不意を突かれた武装兵が3人、声も出せずにぶっ倒れた!
「おぉ! お前やるじゃん!」
「へへ、まーね♪ ねぇナムさん、あとで 胸筋 見せてくれる?」
「えー・・・?」
余裕があるのはここまでだった。
相手はプロの武装集団である。
不意打ちなどそう何度も通用する手段じゃない。隊長らしき男が指示を飛ばし始め、相手の迎撃体勢が徐々に整い始めた。
「リグナム下がれ! 後は私らがやる!」
自由になったカルメンが敵から奪った銃を構えた。
間近にいた武装兵を華麗なソバットで蹴り倒し、電磁ムチを調達したビオラも勇ましくカルメンと並び立つ。
「そうよ! 後は私達が・・・って、ひぃ?!」
いきり立つ2人の背後から、ぬっと黒い影が立ち上がった。
カルメン・ビオラは 石化 した。
彼女達だけではない。ナムやA・J、スレヴィ・マルギーも、武装兵達までもが 硬直 した。
「・・・いや、私 が や る !!!」
地を這うような低い声。
怒りのオーラが周囲を圧倒、武装兵達の戦意を消失させた。
『鉄巨人』、始動である。
敵の隊長が討ち取られるまで、ものの10秒掛からなかった。