第1章 衛星都市マッシモの奇跡
10.その男、最強につき
ボン!ボンボン!!!
続けざまの爆発音!
「局長」の改造ライフルが機械兵の背中を撃つ音は、銃撃というよりまるで砲撃、大砲のような轟音だった。
機械兵は大きく仰け反った。前にいた仲間の機械兵に激突し、そのまま地響き立ててぶっ倒れる。
立ち上がろうともがく機械兵の背に、「局長」が 地を蹴り飛び上がり、ガァン!と勢いよく着地する。
そして大きく凹んだ外装に走る亀裂に手を掛け、容赦無く一気に引きはがした!
鎧をはがれた機械兵の背が、内部の基盤をさらけ出す。
そこに強化グローブをはめた拳が不快な音立てめり込んだ!
グシャッッッ!!!
機械兵の体内に深く沈んだ「局長」の拳が何かを掴んで引っ張り出す。
エネルギー制御盤。機械兵を完全に仕留めるにはこれを破壊するしかない。
千切れかけのコードがバチバチ火花を散らす機械兵の「心臓」は、容易く握りつぶされた。
機械兵はただの鉄くずとなり、そのまま永遠に動きを止めた。
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警備員室のトルーマンは驚愕のあまり、座っていた椅子から転がり落ちた。
(なんだあいつは!?
機械兵を倒したぞ!? こんな事はあり得ない!!! )
目の前のモニターには「局長」と呼ばれた男の姿が映し出されている。
その「局長」が顔を上げ、鋭い目線を向けてきた。
ダークブラウンの髪、やや浅黒い肌。
身長は高く、野性味の強い整った顔立ちで、真っ黒な瞳の双眸には冷たい殺気が宿っている。
実際は対峙する機械兵のカメラ・アイを見ているのだろう。しかし自分が鋭い目線に射貫かれた錯覚に陥った。
次の瞬間、モニター画面は暗転した。
黒く塗りつぶされた画面を見つめ、床にへたり込むトルーマンはしばしの間放心した。
何が起こったかわからない。しかしこの事態を把握した時、戦慄した。
映像を映す機械兵のカメラ・アイが全て破壊されたのだ。
まるでバケモノでも見たかのような冷たい恐怖に、身体の震えが止らなかった。
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「局長」は改造ライフルで残り2体のカメラ・アイを打ち抜くと、手近な方の機械兵に躍りかかった。
機械兵は99.9%の確率で敵の攻撃を予測し防ぐ。その殺人兵器のIT頭脳が「局長」の早さに追いつけない。
腰の鞘からコンバット・ナイフを抜き、その切っ先を頸部と胴体を繋ぐ僅かな隙間に叩き込む。
深く刺さった白銀の刃にてこの原理で体重をかけ、一気に機械兵の首をちぎり取った!
機械の頭部は火花を散らし、格納庫の冷たい床にゴトリと落ちて転がった。
首のない機械兵が腕を闇雲に振り回し始めた。その肩に手をかけ軽く跳ぶ。
背後に降り立ち改造ライフルを構え、至近距離からぶっ放した!
ベコォン!!!
強烈な音を立て、機械兵の胸部は突き出るように変形した。
制御盤が無事であるはずはない。機械兵はガクン、と膝をつくとそのまま動きを停止した。
残る1体が腕のマシンガンを身構えた。
カメラ・アイが破壊され、的確に「局長」を狙うのは難しい。その場にいる者を無差別に撃とうとしているのだ。
「局長」は床を蹴り、機械兵へと間合いを詰めた。
ほんの数歩で機械兵の懐に入り、左腕でマシンガンの銃身を跳ね上げた。
そして大きく振りかぶった右腕拳を強化金属の胸部にたたき込む!
ズガーーーン!!!
強化グローブ装着とはいえ、まさか生身の人間の拳が機械兵の外装を貫こうとは・・・!!?
最後の機械兵はマシンガンの腕を構えたまま、格納庫の床で沈黙した。
「・・・な・・・!!?」
目の前の光景に、フラットは愕然と目を見張った。
しかし。
(俺は奴を知っている。あの強さをこの目で見た事が、ある!!! )
立ち尽すフラットの脳裏に様々な場面が浮かんでは消える。
裏路地で出会った少年、ナム。
裏通りのゴミ捨て場で見せた、去り際の素早い動き。
この格納庫でマフィアを倒してみせた、速さと強さを兼ね備えた戦い方。
それに感じた恐怖にも似た不穏な感情。
ナムと同じ動きをする者を、フラットは確かに知っていた。
(俺は奴を、どこで見た?・・・そうだ、 戦場 だ !!!)
身体の震えが止まらない。
吐き気を伴う恐怖に襲われ、とても立ってはいられない。
茫然自失のフラットはその場にへなへなとへたり込んだ。
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「化け物だ・・・!!!」
モニターの暗い画面を凝視していたトルーマンもまた、尻もちついたまま後ずさる。
そして跳ねるように立ち上がると、警備室の出口目がけて必死の形相で走り出した。
しかし、予想もしなかったものに出くわした彼は、恐怖を忘れて足を止める。
(なぜ、こいつがここに? 裏路地酒場で死んだはずなのに???)
頭をよぎった疑問を最後に、トルーマンの意識はぷつりと途切れた。
床に沈み行く彼の顔は、ナムが殴ってへしゃげた時よりさらに歪にひん曲がった。
「その顔、ナムさんにこっぴどくやられたようッスね。」
酒場で死んだはずのナムの舎弟・ロディが、振り上げた足を戻してニッコリ笑う。
「でも俺からも借りを返しとくッスわ。
俺、実戦苦手なんッスけど、アンタみたいなチンピラくらいは余裕で倒せるんスよ。
俺達の部隊、鍛え方半端じゃないんで♪。」
そう言うと、ロディはつなぎのポケットからワイヤーを引っ張り出し、トルーマンを後ろ手に縛り始めた。
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「局長」は平然とナムやカルメン達が佇む方へと歩き出した。
倒した機械兵にはもう一瞥も与えない。コンクリートの床に散らばる破片や残骸が無慈悲に踏みにじられていく。
「局長、済みません・・・。」
カルメンが直立不動の姿勢をとり彼を迎える。
そんな彼女には見向きもしない。「局長」が足を進めたのは、その隣のバツが悪そうに顔をしかめるナムの前だった。
ドコォン!!!
カルメンがビクッと身をすくめ、ビオラも咄嗟に目をそらす。
まだ床にへたり込んでるフラットに至っては、「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
ナムが腹に 膝蹴り を喰らったのだ!
手加減など微塵もない、情け容赦ない一撃だった。ナムは目を剥き床に崩れ、嘔吐きながらのたうち回る。
「減俸。」
冷酷な声で「局長」が告げた。
「向こう一ヶ月、基地の便所掃除でもしてろ、クソガキ!!!」
改造ライフルを肩に担ぎ、「局長」が格納庫出口に向かって歩き出す。
腰を抜かしたフラットには目もくれないまま、彼は夜の暗闇に消えていった。