13番目の魔女

2024年5月13日

散々喚いて暴れた後、大魔女は「謁見の間」の豪華な椅子に崩れるようにして腰を下ろした。
そこに寡黙な大臣が、恭しく水が入ったゴブレットを差し出す。彼は大魔女のお気に入り。長きに渡って仕える忠臣で、主がヒステリーを起こした時の対処法を心得ている。

「・・・まったく信じられないわ。そう思うだろ、大臣や。」

大魔女が力無くゴブレットを受取った。
「あんな連中がいるんじゃこれから先が思いやられる。
一つ、大魔女たる者がどれだけ偉大か わ か ら せ て やらなくっちゃね!」
新鮮な水で喉を潤し、ニンマリ笑う。
大魔女は空になったゴブレットを玩びながら、とんでもない事を言い出した!

「『継承の儀式』を連中に見せてやろうじゃないか。
大魔女の力を継承する厳粛な瞬間、あれを目にすりゃ、どんなに愚か浅はかな輩もその神聖さがわかるだろうよ。
大臣、儀式は 連中の街 で行うよ!
あの街にも広場があったね、その上空を儀式の場としよう。」

「恐れながら、大魔女様・・・。」
寡黙な大臣が口を開いた。
無口で慎み深い彼が、主の大魔女に進言するのは非常に珍しい事だった。
「13番目の魔女様はまだお若い。
それどころか、子供と言ってもいいご年齢です。
もう少しご成長あそばされてからの方が、よろしいのではないでしょうか?」
「バカをお言いでないよ、大臣!」
話にならない と言った風に、大魔女は顔をしかめて手を振った。

「まだ子供だからいいんじゃないか。妙な知恵が付くと聞き分けがなくなるからね。
あぁ、安心おし。13番目の魔女に大魔女の名を譲った後、私はあの子の 摂政 になるよ。
これからずっと側に居て見守ってやるつもりなのさ。だから早い内からしっかり教育して、言う事聞くように躾なきゃ。
これが 母親の愛情 だよ。 ねぇそうだろ? 大臣や♪」

「・・・。」
寡黙な大臣はいつものように黙って静かに立っていた。
しかし。
頭を下げようとはしなかった。

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一方、13番目の魔女が守っていた街は大変な大騒ぎになっていた。
町長は全ての議員を召集、街の課題はそっちのけで「女の子の名前」について議論した。
街の人達も負けてない。誰もがみんなそれは懸命に「女の子の名前」を考えた。
必死で名前を考えるあまり、いろんな所で事故が起きた。パン焼き職人はパンを大量に焦してダメにし、服の仕立屋は着れない上着やはけないズボンを何十枚も仕立てあげ、魚屋は売り物の魚を何十匹と野良猫に献上、小学校の先生は2+3に たす さんを500だと生徒に教えて笑われた。
朝早くから夜遅くまで、必死で名前を考えた。
レイチェル、マリア、エミリー、ダイアナ、ジェーン、サーシャ、マチルダ、ビッキー・・・。
みんな口々に唱えるのたが、誰1人として言い当てられない。
そして、とうとう 6日目の朝 がやって来た。
街の広場で大魔女が「継承の儀式」を行う日の 朝 である。

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街の人達は広場に集められ、「儀式」の傍観を許された。
「静粛に! 神聖な儀式が始まるのです、言葉を発してはなりません!!!」
ここに至っても諦めきれず「女の子の名前」を唱え続ける街の人々。それを大魔女の警護に就いてきた警備兵達が黙らせる。
もはや打つ手が無くなった。街人達は悲しそうに空を見上げ、今、まさに始まろうとする「儀式」の様子を眺めていた。
広場の上空、晴れ渡った空の上。
雲一つ無い綺麗な青空に、描かれた大きな魔法陣。
「浮遊魔法」の魔法陣だという。淡く輝く円陣の上に、銀ローブで正装した姉魔女達が、13番目の魔女を囲むようにして威儀を正して並んでいる。
金ローブ姿の母・大魔女と向かい合っている13番目の魔女は、いつもより小さく儚げに見えた。

「何も怖がる事はありませんよ。愛しい娘や。」
大魔女が自分が首に掛けていた 首飾り を外して手に取り微笑んだ。

「お前には私が付いているからね。
幾久しくこの母が、教え導いてあげましょう。」

13番目の魔女は深々とかぶったフードの下で、母の手で輝く首飾りを見つめた。
大魔女の首飾り 。この首飾りは女王になった者が身につける 王冠 のようなものである。
色とりどりの魔石が煌めき、それは豪華で美しいのだが、とても荘厳で重たそう。

「いやだよぅ、魔女様ぁ!」
「マジョちゃまー!」

アネッタと小さな妹の声が聞こた。
魔女の頬を涙を一粒、静かに伝って落ちていった。

そんな娘が見えていないのか、大魔女は高々と首飾りを掲げ、「継承の呪文」を詠唱し始めた。
街の広場に呪文を唱える大魔女の声が朗々と流れる。この呪文を詠唱し終えた後、大魔女の首飾りを継承者の首に掛ければ儀式は終わり。その瞬間、13番目の魔女はこの国の女王・大魔女へと昇華する。
その様子は映像を捉えて発信する「魔法の水晶」を通じ、国中の全ての街の空に映し出される事になっている。
13番目の魔女こそが新しい大魔女。
この先、国を護り導いていくのは、13番目の魔女なのだ、と 全ての国民に知らしめるために。

「さぁ、私の愛する国民達よ、見届けなさい!!!」

母・大魔女が高らかに、全国民に宣言した!

「この者こそが 新たな女王!
お前達の未来を守る、偉大なる新しい 大魔女 です!!!」

哀しみのあまり頭を垂れる13番目の小さな魔女。
得意絶頂の大魔女がその細首に、首飾りを掛けようとした時だった!

パ キ ー ー ー ー ー ン !!!

首飾りは大魔女の手から、弾け飛んだ!
大魔女は驚愕に歪んだ顔で、金切り声を張り上げる!

「 誰だい?!!
 『禁忌の呪文』を・・・13番目の魔女の 名前 を言ったのは!!?
 」

広場に集まる街の人々はもちろん、儀式の様子を空に眺める国中の人達もどよめいた。

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「名前を言った?」
「いったい誰が???」
「あんなに考えてもわからなかったのに?」
「誰が13番目の魔女様の 名前 を知ってたんだ???」

街の人達が困惑した。
半ば呆然しながらも、近くの者と顔を見合わせ首を捻って訝しがる。
その時だった。
ざわめく街人の人だかりの中から、その 少年 が歩み出たのは。

「 ソ、ソラム !?」

弦楽器職人の父親が声を上げて驚いた。
街人達がいっそうどよめき、魔女達が浮かぶ方へと進むソラムの姿を見守った。

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ソラムは広場の中心付近、人垣のない開けた場所で立ち止まる。
辺りがシィンと静まり返った。街の人々だけでなく、全国民から注目されているのを感じ、恥ずかしそうに俯いた。
少しの間モジモジしていたが、やがて意を決した様に、顔を上げて空を見る。
青空に描かれた魔法陣。その中心に立つ 13番目の魔女 。
驚く彼女を優しく見つめ、ソラムは両手を広げ差し伸べる。
そして、改めてもう一度。
彼女が「見たい」と切に願った 幸せそうな笑顔を見せて。
大きな声で、ソラムは唱えた。
「禁忌の呪文」、魔 女 の 名 を!

「 ティオラ ・ ティオーレ ・ ティシリーア ・・・ テ ィ ナ !!!


 シ ャ ラ ー ー ー ー ン !!!
 

13番目の魔女の 腕輪 が弾け、魔石が辺りに飛び散った!
キラキラ光る神秘の魔石が、広場一帯に降り注ぐ。
魔力を失ってしまった魔女は、浮遊魔法の魔法陣に立っていらなくなり落ちていく。
緩やかに、風に漂う羽毛のように。
多くの人々に見守られながら、かつて 13番目の魔女 と呼ばれ、今は普通の人間になった 少女 は、ソラムの腕の中へと舞い降りた。
その途端、銀のローブが溶けるように消え、目深に被ったフードも消えた。
スミレ色の大きな瞳。柔らかく波打つ金糸の髪。
白いドレス姿の 少女 が、半ば呆然とソラムを見上げ、少女を抱くソラムもまた、その可憐さに目を見張る。

「・・・。」
「・・・。」

2人は顔を赤らめ、慌ててパッと離れてしまう。
喜びの抱擁を交すには、まだ2人とも幼過ぎた。

「魔女様!!!」
「よかった!13番目の魔女様!!!」

はにかむ2人を取り囲み、街中の人達が喜んだ。
空に映し出されるこの光景に、国中の街から拍手が起こる。
継承の儀式は失敗した。しかしこの日、この国は間違いなく、大きな 幸せ に包まれた。
幼い恋人達への祝福の拍手。
それはいつまでも鳴り止む事は無く、遠く遠く 響き続けた。

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7.この国の未来 へ